【そもそも解説】引き取り手がない遺体、なぜ増えた? 何が問題?

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山田史比古
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 身元ははっきりわかっているのに、遺体を引き取る親族が誰もいない。そんな「身寄りなき遺体」が急増し、火葬などの弔いを迫られる自治体が対応に追われています。どんな課題があるのでしょうか。

     ◇

 Q どういう場合に、遺体の引き取り手がいない事態になるのか。

 A 引き取り手がいない遺体には、いくつかのパターンがある。

 まずは、そもそも身元がわからないケースだ。身元がわからないので、自治体が家族や親族を調べようにも手がかりがない。こうした場合は「行旅(こうりょ)死亡人」と呼ばれ、明治32(1899)年施行の古い法律で、取り扱いが決められている。死亡した場所の自治体の首長が、埋葬や火葬をすることになる。

 近年増えているのは、身元がわかっているケースだ。身元がわかっているので、通常は自治体も家族・親族関係をある程度は把握できる。もちろん、すでに親族が全員亡くなっていたり、調べても親族の所在や連絡先がわからなかったりする例もあるが、存命の親族にすべて引き取りを拒まれる例も多い。法的には親族にも遺体を引き取る義務はないとされる。引き取り手がいなければ、墓地埋葬法に基づいて、やはり死亡地の自治体の首長が、埋葬や火葬を実施することになる。

 Q 市町村長が火葬や埋葬を行うケースはどれぐらいあるのか。

 A 毎年調べる定期的な統計はないが、総務省が、全1741市区町村を対象に2018年4月~21年10月の状況を調べたところ、身元不明の行旅死亡人の事例は、少なくとも424市区町村で計2852件あった。一方、身元がわかっている墓地埋葬法の事例は、497市区町村で1万154件。身元がわかっている事例の方が多かった。

 さらに、事例があった市区町村の一部に、数の推移を聞いたところ、「行旅死亡人」は横ばい傾向とする回答が多く、「墓地埋葬法」は増加傾向という答えが多かった。

 引き取り手がいない遺体の問題の対処に古くから取り組んできた神奈川県横須賀市の例では、データがある1963年度以降、身元がわからないケースは年に数件程度でほぼ変わっていない。一方、身元がわかっているのに引き取り手がいないケースは、昔は1件もない年も多かったものの、1990年代から徐々に増加。2000年以降に急増している。

 Q 引き取る親族がいなくなってきた背景は。

 A まずは、同居している家族がいない単身高齢者が増えたことがあげられる。1980年には、65歳以上の人のうち一人暮らしをしている割合は、男性で4・3%、女性で11・2%だった。それが、2020年には男性で15・0%、女性は22・1%に増加した。

 また、未婚だったり、子どもがいなかったりする人も増えている。さらに、親族関係も希薄化しているとされる。現在の高齢者は比較的きょうだいが多いが、一方で、就職などを機に地方から都市部へ移り住む人が多かった世代でもある。地縁も薄くなりがちだ。

 Q どのような問題があるのか。

 A 自治体側からすると、ま…

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この記事を書いた人
山田史比古
くらし報道部|社会保障・福祉担当
専門・関心分野
社会保障・福祉、住まい、身寄り問題、相続