中学「英語入試」の受験者急増 「一発逆転狙える」「負担増に懸念」

まなviva!

EduA編集部 川口敦子 森泉萌香
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 首都圏の中学入試で、英語を採り入れた入試に挑む受験生が増えている。首都圏模試センターの調査によると、2024年度は前年度より738人多い3298人が受験。背景には、東京都内の学校で帰国生入試の対象が厳格化された影響のほか、受験勉強と並行して英検などの資格も取る受験生が増えている実態がある。(EduA編集部 川口敦子、森泉萌香)

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 首都圏の多くの私立中は、1~2月の一般入試に先駆けて、帰国生対象の入試を実施している。東京私立中学高等学校協会によると、対象者は従来「1年以上海外に滞在し、帰国後3年以内の者」だが、24年度入試から徹底するようあらためて周知し、取り決めがなかった入試の時期は11月以降とすることがルール化された。

「国際生」入試、77人が受験

 そのため24年度入試では、海外滞在経験のないインターナショナルスクール生や、帰国後の年数が該当しない帰国生などが、帰国生入試を受けられなくなった。そこで、一般入試に、インター生を主な対象とする「国際生」枠や英語力が高い受験生を対象とした入試形態を新設する学校が出てきている。

 その一つがサレジアン国際学園中(東京都北区)だ。2年前に校名を変更し、共学化したタイミングで、英語で授業をするインターナショナルクラスを設置。24年度からは、インター生を主な対象とした「国際生」入試を新設した。

 2月にあった3回の入試は77人が受験した。11月の帰国生入試を合わせた応募者数は178人で、前年度の帰国生入試の2倍近くになった。募集広報部長の尾崎正靖教諭は「価値観や考え、強みが異なる生徒を幅広く受け入れたい。多様なバックグラウンドを持つ帰国生に加えて、国内でも英語で授業を受けるなどさまざまな経験をしてきたインター生を受け入れる入試も多様性の一つ」と話す。

中学受験を見据え、プリスクール人気の高まりも

 小学校から高校まで英語ですべての教科を学ぶインターナショナルスクールは、国内に60校以上ある。近年は保育や幼児教育を英語で行うプリスクールも人気が高まり、800園以上と急増している。

 情報サイトやスクールを運営する「インターナショナルスクールタイムズ」編集長の村田学さんは、「(いま幼児の世代が中学受験する頃には)英語入試が増えると見込み、その受験対策としてプリスクールを考える親が増えている」と説明する。「学校側からすると、6年後の大学進学実績を出せる子を早く囲い込みたい、英語ができる優秀なインター生を取り込みたいというねらいがあるのだろう。今後もこの傾向は続き、さらに広がる可能性はある」。一方で、「英語と中学受験の両方を追い求め過ぎて、逆に無気力になり、自分が何をしたいのかが見えない子が増えるのではないか」とも懸念する。

「英語なら負けない」子、面接と書類審査で

 佼成学園中(東京都杉並区)のグローバルコースは、高校卒業までの英検1級取得を目標とし、海外の大学進学も視野に入れる。

 グローバルコースに入ることが前提の「スーパーイングリッシュ入試」は、24年度で5回目を迎えた。試験科目は面接(英語・日本語)と書類審査(小学校の通知表と英検準2級以上の資格証明書)のみだ。これまでの受験者は多い年で4人だったが、24年度は14人が出願、10人が受験し、8人が合格した。

 八十川勝教頭は「他の教科は自信がないけれど、英語なら負けないというお子さんが注目してくれているのかもしれない」と受け止めている。

 共立女子中(東京都千代田区)は18年度から、英語のグループワークを採り入れた「インタラクティブ入試」を実施してきた。22年度から「英語4技能型」に変更したが、文法の力は問わず、英語をどう活用できるかを選考基準にしているという。石田大介教諭は「多様性を大事にしたいという観点から始まった。1学年8クラスある学校だが、国際学級は設けていない。均等に各クラスに交じることで、英語が苦手な生徒も感化されている」と話す。

「受験のために英語中断」→「受験も英語も」

 首都圏模試センターによると、約300校ある私立中のうち、英語入試を実施する学校は22年度はおよそ半分にあたる146校に上った。ただ、近年は微減している(グラフ)。同センター教育研究所長の北一成さんによると、増えているのは「英検資格入試」だ。資格があると優遇され、3級以上を設定している学校が多いという。豊島岡女子学園中(東京都豊島区)によると、同校もすでに行っている3回の入試と並行する形で、英語資格を利用した入試(若干名募集)の新設を検討しているという。

 以前は塾が、英語などの習い事を減らすことを推奨していたが、最近は何らかの形で英語の学習を続ける家庭が増えている。北さんは「中学受験を考えていなかった小学生や保護者にとって、英語入試は一発逆転を狙えるチャンスでもある」という。

 一方、サピックス教育事業本部長の広野雅明さんは「難関校にまでは広がっていない。ただでさえ4科目の受験勉強で大変な子どもの負担を増やすことには懸念があり、普遍化するのはまだ先だろう」とみる。「入学段階で英語力だけ高い子どもよりも、入学後に伸びる可能性の高い子どもの入学を期待している学校が多いということ。英語力の高い子どもに合わせた出題をすると、英語だけで合否が決まる恐れもある。学校としては簡単には踏み切れない」

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