パンクはフォークソングの後継者? 「無益な反抗の象徴」の系譜
コラム「ポップスみおつくし」 増田聡・大阪公立大教授
国内外のポピュラー音楽にまつわる様々な話題について、大阪公立大教授・増田聡さん、音楽評論家・萩原健太さん、慶応大教授・大和田俊之さんの3人が月替わりで書くコラムです。
「パンク」といえば、革ジャンに穴の開いたジーンズ、安全ピンとTシャツ、尖(とが)らせた髪形、といった類型的なイメージが連想される。1970年代に勃興したパンクロックは、ニューヨークのライブハウスで密(ひそ)かに始まり、マルコム・マクラレンという人物によってロンドンに持ち込まれ、セックス・ピストルズという象徴的バンドが世界的なパンクの流行を引き起こしたといった、定型的なストーリーで語られる。パンクは社会に反抗する若者の音楽とされるが、21世紀の現在、そのイメージは古色蒼然(そうぜん)とした印象は否めない。わかりやすく社会に逆らう反抗のポーズが無効であることをわれわれは知り過ぎてしまった。路上に唾(つば)を吐き中指を立てるパンクのイメージとはいまや、「無益な反抗」の象徴として、しばしば嘲笑の対象ですらある。「パンクは死んだ」と繰り返し語られるのは、わかりやすい反抗的姿勢が社会を変えることはなく、むしろ逆効果すら及ぼす社会状況の帰結を反映するものであるだろう。
こんにちでは一過性の流行音楽に伴う過ぎ去ったサブカルチャーとみなされがちなパンク。だが、それが背景とする文化的・思想的系譜は、たんなる若者の反抗にとどまらない重層的な背景をもつ。先日刊行されたばかりの川上幸之介『パンクの系譜学』(書肆侃侃房)はその背景を壮大なスケールで浮かび上がらせている。私は興奮しつつ読んだ。
パンクをその思想的背景から…
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