第6回泥沼のウクライナ戦争、ロシア軍に取り付く「亡霊」小泉悠さんに聞く

 第2次世界大戦の末期、旧ソ連軍は「赤いナポレオン」が考案した「作戦術」の用兵術で、ドイツや旧日本軍を蹂躙(じゅうりん)した。そのDNAを受け継ぐはずのロシア軍が、なぜ、ウクライナで泥沼の戦争を続けるのか。東京大学先端科学技術研究センター准教授・小泉悠さん(ロシア軍事・安全保障)に聞いた。

――1945年までの独ソ戦や日ソ戦は、物量優先の戦いだったのではないかと考えています。その戦術なり思想は、戦後の冷戦期、ソ連でどう継承されたのでしょうか?

 「赤いナポレオン」ことトゥハチェフスキーの「作戦術」が見事だったのは、対独戦でも満州侵攻でも、ソ連軍がそれをある程度は理論通りに実行してみせたという点にあると思います。通俗的なソ連軍のイメージは、物量を単にぶつけるだけという見方がされがちです。しかし実際は、兵力の配置と補給を巧みに組み合わせ、物量を最適なタイミングと順番でぶつけることで、相互の攻撃軸を連携させて敵を壊滅させる大きな打撃力を生み出すことをしていました。実際、冷戦期にはその打撃力が維持され、NATO(北大西洋条約機構)も中国もそれを恐れていました。

――ソ連崩壊後、それがどう変わったのでしょうか?

 冷戦が終わって混迷が続きま…

この記事は有料記事です。残り2487文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
永井靖二
大阪社会部|災害担当
専門・関心分野
近現代史、原発、調査報道