リニア中央新幹線静岡工区のトンネル掘削工事による大井川の水資源流出について、流域市町の首長と静岡県の川勝平太知事の認識にずれが生じている。掘削の影響を調べるために地下を掘る「ボーリング」を県内でも進めるべきだという首長らに対し、知事はまず影響を分析・監視する「モニタリング」の体制づくりが必要として慎重な姿勢だ。

 リニア中央新幹線静岡工区の工事をめぐり、JR東海は25日夜、静岡市内のホテルで大井川流域8市2町の首長らと非公開の意見交換会を開いた。首長らからはトンネル掘削に伴う湧水(ゆうすい)などの影響を調査する「高速長尺先進ボーリング」を早期に進めてもらいたいとの要望が出たという。

 終了後に記者団の取材に応じた島田市の染谷絹代市長は、首長らから「(水資源への影響を調査・監視する)モニタリングやボーリングについて、どちらも早く着実に進めてもらいたい、住民の不安が払拭(ふっしょく)されるようにデータをしっかり公開してほしい、との話があった」と説明した。

 リニア工事では、トンネル掘削で大井川の水が山梨県側に流出するおそれが指摘され、JR東海は上流にある田代ダムの取水を抑制することで流出分を補う案を示し、昨年12月にダムを運営する東京電力リニューアブルパワーと基本合意書を締結した。流域市町は「一歩前進で、大変うれしい」(染谷市長)とおおむね評価している。

 田代ダムでは今月から来年11月までの予定で、山梨県にある田代川第2発電所の設備更新工事に伴い、取水を止めている。染谷市長によると、意見交換会では流域市町の意見として「もし工事期間中にボーリングをして水が山梨県側に流出したとしても、(取水中止で)それ以上の水が大井川に戻されるのであれば、流れた分を後で返さなくてもいい」との総意をJR東海に伝えたという。

 一方、染谷市長は「JR東海は静岡市や県とも協議をしているが、交渉状況は流域にはわからない。ぜひ情報提供をしてもらいたい」と注文した。

 JR東海の丹羽俊介社長も終了後に記者団の取材に応じ、「(モニタリングやボーリングについて)しっかりと進めたい」との考えを示した。モニタリングについては、どの場所でどれだけの頻度で進めるのかという質問や各地域の実情を踏まえるよう求める声が出たという。丹羽社長は「水資源は大変重要なテーマなので、地域の懸念や心配を払拭するため、双方向のコミュニケーションを心がけたい」とも述べた。

 意見交換会は昨年9月に次いで3回目。この日は10市町の首長らとJR東海の丹羽社長ら同社幹部が出席し、約1時間半にわたって協議した。(林国広、斉藤智子)

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 川勝平太知事は26日の定例会見で、リニア中央新幹線静岡工区のトンネル掘削の影響を調べるボーリングについて「水はいったん流出すると戻ってこない。掘削によって出る水の流量を監視する体制が明確にならなくてはいけない」と述べ、調査開始にあらためて慎重な姿勢を示した。

 川勝知事は掘削の影響を調べるボーリングも地下を掘って進めるため、「どれくらいの水が出るのか調査しなければわからない。懸念材料を払拭することが大切だ」と主張した。そのうえで「まずモニタリングをしっかりするということが次の話になる。体制をしっかりするということだ」と話した。

 国土交通省はリニア工事による水資源や生態系への影響を専門家らが分析・監視するモニタリング委員会を近くつくる。川勝知事は「2月中に発表されると聞いている。この体制に関心がある」と話した。

 JR東海は山梨県側でボーリングを進め、現在は静岡県境の手前459メートルで工事を中断している。静岡県内の地質や湧水(ゆうすい)の状況を確認するため、県境を越えてボーリングを進めたいとしている。大井川流域の市町の首長らは、25日のJR東海との意見交換会でボーリングを進めるよう求めた。

 川勝知事は会見で「10市町の総意なのか、事実関係も含めて確認している」と明らかにした。流域市町の首長との認識の違いについて、「南アルプスの生態系の保全は国際的な責務であり、自然や生態系、水資源を守るのは(私の)使命だと思っている」と述べた。(青山祥子)

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 〈高速長尺先進ボーリング〉 地中の地質や地下水の状態を確認するため、トンネル掘削に先行してJR東海が直径12~35センチ程度の小さな孔(穴)をあけて実施している調査。山梨県側から静岡県側に向けて2023年2月に開始した。県境付近に断層が広がっており、静岡県は「県内の地下水が山梨県側に流出する可能性もある」として、県境手前の300メートルを目安に調査の中断を求めてきた。JR東海は現在までに、県境手前459メートルの地点まで掘削したが、掘削機材のメンテナンスを理由に、一時中断している。