新しい福祉、新しいリベラル 調査で見えた「人への投資」の可能性

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聞き手 編集委員・塩倉裕

 日本の有権者はどのようなタイプの福祉国家を望んでいるのだろう。社会学者の金澤悠介・立命館大学准教授が7千人を対象に意識調査をしたところ、従来の「弱者支援」型とは異なり、すべての個人の成長を支援する「社会的投資」型の福祉を望む人が2割以上いる可能性が見えてきた。このニーズにリーチしている政党はないという。「リベラル」の新しい柱になりうるグループだと分析している金澤さんに、話を聞いた。

見えない福祉国家像、あいまいな「リベラル」

 ――大規模なアンケートをして人々の意識を調べる社会調査が専門ですね。なぜ今回、有権者がどのようなタイプの福祉国家を望んでいるかを調べたのですか。

 「日本では給与が上がらず雇用も不安定化する中で、少子高齢化が進んでいます。失業や病気などの危機から人々を救う福祉国家への期待は依然としてありますが、財政難が深刻で福祉や社会保障の未来図が見えません。福祉国家をどうしたいのか、有権者の願望を可視化したいと思いました」

 「もう一つあります。日本の政治の議論では『保守』と『リベラル』という言葉が対立的に使われていますが、何と何がどう対立しているのかは実はよく見えず、とりわけ『リベラルとは何か』はあいまいです。実態をつかみ、可能性を探りたいと思いました」

 ――どのような調査を?

 「2022年7月の参院選の直後に、18~79歳の7千人を対象にウェブで意識調査をしました。たとえば、大学進学のための奨学金を税金で支援するケースについてどれが望ましいかを尋ねた項目では、①貧困層などの不利な立場の生徒を対象にする②経済状況によらずすべての生徒を対象にする③自己負担で進学すべきであって税金を使う必要はない、という3種類の選択肢を用意しました」

 「また、個人がビジネススキルを習得するための支援を政府が行うケースを挙げて①失業者や非正規労働者に優先的にサービスを提供する②学ぶ意思のある人すべてに提供する③政府が支援する必要はない、の三つから選んでもらう質問も入れました。①は『弱者支援型』という従来型の福祉のあり方です。②が『社会的投資型』と呼ばれる新しい福祉のあり方で、③は政府による社会福祉は不要だと考える『リバタリアン(自由至上主義者)型』です」

「社会的投資国家」という構想

 ――社会的投資型の福祉国家とは、どういうものですか。

 「先進諸国で財政難が広がって福祉国家が見直しを迫られたとき、打開策として欧州で1990年代に提案された『社会的投資国家』構想がベースです。特徴は、社会福祉サービスを『弱者への支援』ではなく『人への投資』と捉えることです。たとえば、失業者に給付金を支給するだけではなく、職業訓練や就労支援を通じて誰もが働くための能力や機会を得られるように環境を整備します」

 ――弱者への支援を切り捨てた福祉にはなりませんか。

 「切り捨てではありません。『選択と集中』が推奨される一般的な投資行為とは違って、どんな状況に置かれた人にも利益をもたらそうとする投資だからこそ、『社会的』という形容詞が添えられているのです。もちろん、弱者支援が不当に減らされないよう警戒することは必要ですが」

 ――調査からは、福祉へのどんな要望が見えたのですか。

 「統計プログラムで回答者を、回答傾向が互いに異なる6グループに分類したところ、個人の成長を支援するタイプの『社会的投資型』(A)を望む人が全体の23%を占めていました。また、個人ではなく経済の成長を重視する社会的投資型(B)も13%いました」

「弱者支援」、「リバタリアン」とは異なる一群

 「『弱者支援型』を望むグル…

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