中国が最も警戒する外交官、垂秀夫氏に聞く 変質する隣国とその理由

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聞き手 中国総局長・林望

 中国が最も警戒する外交官――。外交官として中国と約40年渡りあい、在職中はそんな評をも得た垂秀夫氏が昨年末、駐中国大使の任を終えて退官した。近年、枕ことばとともに紹介される官僚も少ないが、激しい仕事ぶりと中国理解の深さで知られた。変質する隣国と、私たちはどう向き合えばいいのか、聞いた。

 ――台湾総統選がありました。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は中台統一を「歴史的必然」と言っていますが、在任中にどこまで目指すつもりでしょう。

 「皆さん誤解があると思う。確かに習氏は台湾問題を自分のレガシー(政治的遺産)にしようとしているのだろう。香港返還が鄧小平のレガシーになったように。しかし、香港が返還された1997年7月1日、鄧はもうこの世にいなかった。返還が決まったのは84年の中英合意だ」

 ――改革開放に道を開いた鄧は、英国式の香港の諸制度を受け入れる一国二制度を唱えて香港返還に道筋をつけました。

 「鄧がやったのは歴史的な変換点を作り、レールを敷いたこと。習氏の考えていることを理解するヒントになる」

 約2時間にわたった垂氏のインタビューを2回に分けて報告します。前編のこの記事では台湾問題や米中関係、中国の対外戦略などについて聞きました。後編では日中関係を中心に伺います。

台湾問題、私たちが今すべきこと

 ――米軍高官の発言などから、一時、2027年の台湾武力侵攻説も広まりました。

 「ウクライナ侵攻では、軍事…

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    倉田徹
    (立教大学法学部教授)
    2024年1月27日9時3分 投稿
    【視点】

    台湾と香港の問題はしばしば相互に参照されますが、両地の置かれていた状況は極めて大きく異なります。香港は英国による植民地統治の下にあり、その返還は地元の香港人の意思に関係なく、宗主国・英国が決定しました。これに対し、台湾は自己完結した独自の政

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