「侮辱的で自己中心的な質問」 シンガポール元次官が反発した理由は

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聞き手・牧野愛博
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 日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力50周年を記念した特別首脳会議が17日、都内で開かれました。シンガポールの外務次官を務めたビラハリ・カウシカン氏は「地域の安定のため、日米韓の協力が重要だ」と語ります。

 ――特別首脳会議をどう評価しましたか。

 中国の好戦的な動きの増加やウクライナでの戦争による不確実性の高まりなど、戦略環境が変化しています。日本とASEANの協力は、防衛・安全保障を含め、これまで以上に重要になっています。

 シンガポールのリー・シェンロン首相が語ったように、日本は地域の安全保障に大きく貢献しており、シンガポールは地域の安定促進のために日本との協力深化を歓迎しています。シンガポールの東南アジア研究所によるASEAN10カ国の世論調査は、日本はASEANが最も信頼する対話の相手だと一貫して示しています。

「ASEANで米国の評判が良くない」と考えるのは大きな間違い

 ――評判の良くない米国の代わりに、日韓が東南アジア外交を推進するという見方もあります。

 ASEANで米国の評判が良くないと考えるのは、大きな間違いだと思います。ラオスとミャンマーは例外かもしれませんが、ASEANの主要メンバーの間では、東アジア全体の戦略的バランスを維持する上で米国は不可欠な要素だとの認識が高まっています。ベトナムなどが米国との防衛協力を強めています。

 シンガポールは1990年、米国と覚書を締結しました。当時、横須賀以外では東アジアで唯一、米空母が停泊できるチャンギ海軍基地など、軍事施設の一部使用を認めました。インドネシアマレーシアは覚書の破棄を求めました。

 しかし、2019年の覚書の更新に対しては抗議は全くありませんでした。今日、シンガポールと米国との防衛協力は、地域の公共財と見なされています。

 来年誰が米大統領に選ばれても、私たちは新政権と協力しなければなりません。トランプ氏が当選しても、中国を巡るコンセンサスがあるアジアで、米国の政策に大きな変化があるとは思えません。トランプ氏が当選した場合の本当に大きな変化は、アジアではなく欧州で起きるでしょう。

 日米韓の協力は、米国のプレゼンスを補完し、この地域におけるパワーバランスを維持するために極めて重要です。米国は不可欠の存在ですが、中東など他の地域でも責任を持つため、支援が必要になります。

「日米韓合意が米大統領選後も続くことを願うばかり」

 そのためにも、米国の同盟国やシンガポールなどのパートナーが緊密に協力して支援することが重要です。力の均衡なくして安定はあり得ず、安定こそが平和と繁栄の基盤です。日韓関係が複雑であることを考えると、日米韓合意が来年の米国大統領選後も続くことを願うばかりです。

 ――バイデン米大統領も習近平(シーチンピン)中国国家主席も今年、ベトナムを訪れました。

 ベトナムは、米中だけでなく、日韓印豪や欧州連合(EU)、さらにはロシアなど、すべての主要国と良好な関係、少なくとも安定した関係を築こうとしています。東南アジアのどの国も、世界を単純化した二元論的な見方をしていません。ベトナムの行動は、全てのASEAN加盟国に共通するものです。

 ただ、ベトナムの場合、別の要因があります。ベトナムは中国と同様、共産主義国家であり、党対党の関係は、しばしば複雑な関係において重要な安定要因であることを忘れてはいけません。世界には共産主義国が中国、ベトナム、ラオス、北朝鮮、キューバの5カ国しか残っていません。意見の相違が何であれ、政権の存続は共通の利益になっているのです。

 ――ウクライナとガザの戦乱で、戦後秩序が揺らいでいます。

 ロシアと中国の利害が一致しているとは思いません。両国とも現在の秩序に不満を抱いていますが、中国はロシアよりもはるかに現在の秩序になじんでいます。経済的には中国は現在の秩序の主な受益者です。

 中国は独立独歩を主張するかもしれませんが、言うはやすく行うは難しです。その力があっても、テーブルを蹴飛ばして根本的に異なる取り決めを模索することは、中国の利益にはなりません。個人的には、中国に新しい国際秩序を構築する能力があるとは思えません。ASEANは小国として、安定とルールに基づく秩序を望んでいます。

 ただ、一つの出来事も視点によって大きく異なって見えることを心に留めておくべきです。私たちは同じ、「ルールに基づく秩序」という言葉を使うかもしれませんが、常に全員にとって同じ意味になるわけではありません。

「我々をこじきだと想定しているようだ」

 ――日本のODA(政府の途上国援助)外交のパワーは弱まっています。

 これは非常に侮辱的で自己中心的な質問です。ASEAN諸国はすべて、受け取った寄付のみに基づいて関係を評価するこじきだと想定しているように見えるからです。我々は自国の国益を知っており、それに基づいて行動できます。日本が果たすべき重要な役割は認識しています。

 ――韓国がASEANへの武…

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