第1回「生きていかれへん」、研究費予算ほぼなし 地域協働を柱に 高知大

有料記事地方大は生き残れるか

聞き手・鈴木智之
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 全国に先駆けて少子高齢化や人口減少といった社会課題に直面してきた高知県。一見、逆境にも見える状況下で、高知大の桜井克年学長(66)は「地域の大学の一等賞」を目標に掲げる。真意を桜井学長に聞いた。

 ――「スーパー・リージョナル・ユニバーシティー」を目指しているそうですね。

 高知県は課題先進県と言われて久しく、少子高齢化、中山間地の過疎で人がいなくなっています。日本で深刻化する問題を15年ほど先取りしているのに加え、南海トラフ巨大地震のリスクもあります。

 「大学ってどうしたらええねやろ」という中で、私は2005年以降、学長特別補佐や副学長、理事といった役職をしてきました。04年には大学が法人化され、そこから6年ごとに中期目標・中期計画を掲げています。

 第1期の時点で、今まで「地方大学」と言ってたのを「地域の大学」に変えようとしていました。10年からの第2期は「地域になくてはならない大学へ」、16年からの第3期は「地域と協働できる大学へ」と、だんだんと地域に深く入っていく方向で目標を定めました。

 昨年からの第4期では「地域を支え、地域を変えることができる大学」を目指しています。よっぽど覚悟が決まってないと言えないことです。

 国の「スーパーグローバル大学創成支援事業」があるのなら、地域の大学(リージョナルユニバーシティー)の中で一等賞になるという目標として「スーパー・リージョナル・ユニバーシティー」という言葉が妥当と考え、学長になった18年から掲げています。

 ――15年には独創的な地域協働学部を設置しています。どんな狙いですか。

 地域がキャンパスで、そこに住民と学生、先生が一緒になってコラボレートしてその地域を変えていこうという学問分野です。

 当時、改組担当理事をしていましたが、学部の設置は結構大変な道のりでした。

 文科省からいろんな組織改革の交付金をもらいながら、今までにない学問分野としての「地域協働学というものを高知大学はつくろう」と決めました。

 最終のプランができて、文科省に半年ぐらいみっちり相談に行って、8回ほどやり取りをして、やっと設置というところで落ち着きました。粘り勝ちでした。

 一番苦しかったのは「地域協働学という学問はない」「ないからつくんねん」というやり取りでした。

 ――設置されて9年目。地域の運動会を復活させるなどのイベント企画や特産品の開発など、多様な取り組みをしています。

 簡単に完成された学問になるとは元々思ってないし、地域のいろんな課題が山積する中で、個々にいろいろなやり方で当たってるので、体系的に組み立てられるようになるのはまだ先でしょう。

 だけど、地域の人に対して「高知大はいつも学部単位でやっています。先生がおらんようになったり、学生が興味なくなったりしたら終わりと違いますよ」。「要望があり、必要があり、一緒にコラボレートできる限りは大学は逃げません」と。これが一番の大きなコンセプトです。

 当初24人の先生に対し、1学年は60人。特に文系では、こんな比率で運営できている国立大学はほぼないでしょう。学生は地域の運営のノウハウを蓄積して、将来は地域コーディネーターみたいなところを目指していけます。

 ――地域の要望はどのようにくみ取っているのですか。

 「高知大学インサイド・コミュニティ・システム」(KICS)化事業では4人の先生を採用して、県内の4地域に常駐させました。県の職員らと一緒に地域を歩いて回って年間50ぐらいの課題を集めています。

 ――それでも、高齢化は進み続け、集落自体も減っています。

 地域の人口減少、過疎化を止めて、全部生かすのは難しい。中の人が元気でないと。外からいっぱい若者を連れてきたら済むという問題じゃありません。

 だから、大学として可能な限りサポートして、ちょっとでも強い集落レベルの核を将来的にはつくっていくしかないと思う。若者が考える将来像みたいなのがある程度採り入れられないと、若い人は住めません。

 ――これほど「地域」を色濃く打ち出す大学は珍しいです。

 地域協働学部が一番フロントで県内のいくつもの場所でプロジェクトを進めていますが、全学的にも「地域との協働」を教育の柱にしています。

 前の学長も、その前の学長も現場主義を濃く打ち出していました。とにかく地域におって現場を見んかったら現場に受け入れられるはずがありません。

 およそ7割5分の学生は県外から来ます。高知に残ってくれたらうれしいけど、それだけじゃなくて自分の地域で中核を担う人にはなってほしいと思っています。

 「県民が皆高知大学生」っていう構想も出しています。地域のいろんなところでコラボしてるので、大学とちょっとでも関わった人は誰でも入れる校友会を設置しました。

 ――地方大学は全体的に予算のやりくりに苦労している印象です。

 どこでも一緒でしょう。全国的な問題やと思います。予算は法人化してからもそんなに減っていないと言われます。でも、例えば1億でも減ると福利厚生を含めた給料7人分ぐらい。

 そのままでは生きていかれへんから、新しいところを生み出しながら、古いところをちょっとずつそいで、人減らさんとしょうがない。

 今、研究費予算はほとんどないに等しいです。僕が最初に教授になった頃はまだ百何十万とかあったが、今はもう1回学会に行ったらしまいとか、そのぐらいの予算です。

厳しい運営を強いられている地方大学。世界最高水準をめざす大学を支援する国際卓越研究大学制度など、加速する「選択と集中」に何を思うのか。各地を訪ね、地方大トップらに本音や生き残りをかけた戦略を聞く。

 うちは均等に配っているので…

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