ミラノ、パリの「コレクション」と呼ぶのは日本だけ? 誤解の一因に

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編集委員・後藤洋平

 スポーツ選手が「パリ五輪に出場した」というのと、「五輪期間中にパリで開かれた大会に出場した」というのは意味が違う。当然だ。けれど、五輪を「コレクション」に置き換えて、ファッションの世界の中で考えると、混同してしまうような事態が起きている。

 9月中旬から10月初旬にかけて、ミラノとパリの「ファッションウィーク」を取材した。朝日新聞をはじめ多くの日本メディアは「ミラノ・コレクション」「パリ・コレクション」と表記したり、「○○コレ」と略したりしているが、正式名称は「コレクション」ではなく「ファッションウィーク」。「○○(地名)コレクション」が通じるのは日本だけだ。

 日本のファッション専門メディアや大手メディアの専門記者が「パリ・コレクション」「ミラノ・コレクション」と記述する際、一部の例外はあるが、基本的には各コレクションの「公式スケジュール」として認められているブランドのショーやプレゼンテーションを指している。

 パリやミラノのファッションウィークで「公式」のショースケジュールに記載されているブランドがショーを開催している同じ時間帯には、他のブランドのショーはない。ほぼ全てのショーが予定時刻よりも遅れるので「次のショーに間に合わない」ということは起こりえるが、建前のうえではバイヤーやジャーナリストは自身が予定している全ての公式ショーを見ることができる。

 もちろん、限られた枠の公式のショースケジュールに入るには主催者による厳しい審査があり、ゆえに商業的な反響も大きいのだ。

 今回の2024年春夏シーズンの新作発表の取材では、ミラノで30超、パリでは50近いショーや展示会に足を運んだ。そのミラノの期間中に、知人を通して「私が応援するモデルが、『ミラノ・コレクション』に出る日本ブランドのショーでランウェーを歩くので、ぜひ取材をしてほしい」という、ある日本人の男性実業家から連絡があった。

 指定された場所を訪ねると、複数のブランドが連続して同じ会場でショーをしていた。歴史的な名作絵画をプリントした大作りな服を着たモデルがランウェーを歩き、フォトグラファー席の前で止まってポーズ。私がふだん取材しているショーは、ブランドごとに別々に行われ、モデルはカメラに向かって、ほぼ止まらずにきびすを返す。客席には、世界的に有名なジャーナリストやバイヤーはいなかった。公式スケジュールを確認すると、そのブランド名は記載がなかった。

主要紙もNHKも「ミラノ初参加」と報じたが…

 つまり、このショーは、「ミ…

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この記事を書いた人
後藤洋平
編集委員|ファッション・メディア・文化担当
専門・関心分野
ファッション、メディア、文化