「手術なしの性別変更」実現なるか 特例法の改正議論始まる
トランスジェンダーが戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失う手術が必要と定めた性同一性障害特例法の要件が、最高裁で違憲とされたのを受け、特例法の改正をめぐる議論が始まった。「生殖不能要件」のみを削除する最低限の改正にとどまるのか、もう一つの手術要件「外観要件」もなくして「手術なしの性別変更」を実現するのかが、最大の焦点だ。
世界でも異例の法律に?
二つの手術要件である生殖不能要件と外観要件は、体にメスを入れるという意味では一体だ。最高裁は、外観要件については高裁段階で検討されていないとして審理を高裁に差し戻したが、決定の個別意見で、3人の裁判官は「身体への侵襲を受けない自由の制約の程度は重大で、憲法違反」と述べた。
海外では性別の自己決定権を尊重し、性別変更の要件から性別適合手術を外す動きが広がる。全国の当事者や支援者でつくる「LGBT法連合会」が調べた範囲では、生殖不能要件をなくした国で、外観要件を残している国はないという。手術要件のうち、性器の外観の変更を求める外観要件だけが残れば、世界でも異例の法律となってしまう。
当事者ら「手術2要件、同時撤廃を」
トランス男性とトランス女性の間で、大きな「不平等」が生じているという問題もある。
女性から男性に移行するトランス男性の場合、ホルモン投与で陰核(クリトリス)が肥大していれば、家裁が外観要件を満たすと判断する傾向にある。このため生殖不能要件が無効となったいま、一切の手術なしで性別変更が可能になった。
一方で男性から女性に移行するトランス女性は、外観要件を満たすために性器の手術が必須で、いまも陰茎(ペニス)を切除しなければ性別変更できない。多くの当事者は「生殖不能要件と外観要件が同時に削除され、性別変更のために一切の手術が不要にならなければ、問題は解決しない」として手術2要件の撤廃を求める。
また、未成年の子がいないことを要する「子なし要件」は世界でもまれな規定で、20年前の法制定当時から根強い反対がある。
そもそも特例法が冠する「性同一性障害(GID)」は、国際的には消えた診断名だ。世界保健機関(WHO)が2018年に改訂を決めた国際疾病分類で、性同一性障害は「性別不合」とされ、精神障害の分類から外れた。国内ではまだ未適用で、適用を見据えた検討も必要となる。
GID学会理事長の中塚幹也・岡山大教授は「トランスジェンダーの中には、手術を希望する人もいれば、医学的に受けられない人や望まない人もいる。差し戻し審の結論を待たず、速やかに二つの手術要件を削除すべきだ」と指摘。「子なし要件も『自分のせいで親が性別変更できない』と思い悩む子どもを生んでおり、あわせて見直し議論をしてほしい」と話す。
最高裁が法令を違憲と判断した場合、国や立法府は法改正に向けて動かなければならない。憲法に公務員や国会議員らの「憲法尊重義務」が明記されているからだ。
しかし、法改正に向けた各党の足並みはそろっていない。
保守系議連、新たな要件追加を示唆
自民には、性的少数者をめぐ…
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- 【視点】
ようやく最高裁の違憲判断が一部出たばかりですが、法律の名前(=性同一性障害特例法)ひとつとっても、国際的に見れば時代錯誤。それが2023年の日本の現状です。難解なテーマですが、これから進む改正議論を見守る多くの方にまずはこの点を知ってほしい
…続きを読む