首相らの「還元」に感じるモヤモヤの正体は 財政学者「社会がない」
税収を国民に戻すとの意味合いで「還元」という言葉がたびたび使われるようになりました。岸田文雄首相をはじめ政治家たちが発言し、それを新聞やテレビも報じています。記者はこの言葉遣いに言いようのないもやもやを感じました。その正体を考えたいと、桃山学院大の吉弘憲介教授(財政学、租税政策)に話を聞きました。
とりわけ重くなった日本の個人負担
――なぜ、いま政治が「還元」を強調しているのでしょうか。
経済協力開発機構(OECD)に加盟するいくつかの国について、2000年と20年で個人の税金と社会保障の負担がどう変わったかを比べました。
デンマーク、フランス、ドイツ、日本、スウェーデン、米国のうち、対GDP比で個人所得税、労働者負担分の社会保険料、消費税の三つがすべて上がったのは、日本だけでした。
日本は消費税が倍になったほか、社会保険料も対GDP比で3.7%から6.0%に上がっています。個人所得税は少し緩やかで、5.3%から6.2%に上がりました。
たとえばスウェーデンよりは日本の全体の負担率は低いです。それでも、税金や社会保険料の負担が上がり、生活が苦しくなった実感があるなかで、「負担を下げてほしい」という議論が出てくるのは必然的だろうと思います。
負担感を和らげようとしているとアピールするため、「還元」が使われるのでしょう。
「本当に還元する余力があるのか」
――所得税の減税が取りざたされていますが、「還元」という言葉をどう感じますか。
財政学の教科書を読むと、基本的な考え方として「量出制入(りょうしゅつせいにゅう)」が出てきます。「出ずるを量りて入るを制す」、つまり「公共サービスのためにこれだけの歳出がどうしても必要なので、税金をお願いします」ということです。
税金は、私有財産の処分権を政府が強制的に召し上げるもので、国民からすれば嫌なもの。だからこそ予算や歳出項目は先に決めておいて、そのために必要な税金を払ってもらうわけです。
今回の「還元」は減税の意味で論じられています。政府が作り出した公共サービスを配るのではなく、ただ「税金を集めすぎたので戻します」と言っているように聞こえます。
これには二重の意味で違和感が生じるのではないでしょうか。
ひとつには「そもそもそこま…
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