「ゴール」はどこに? 元吉本興業の名物広報がみたジャニーズの対応
自らの意思ではなく批判にさらされての社名変更や、記者会見での「指名NGリスト」発覚。故ジャニー喜多川氏の長年にわたる性加害問題が大きな騒動になって以降、旧ジャニーズ事務所(現SMILE(スマイル)―UP(アップ).)の対応は後手後手に回っている。吉本興業の初代広報担当で、同社のトラブルのたびに対応にあたってきた竹中功さん(64)に聞いた。会見の運営やMCには大きな問題があり、東山紀之社長ら登壇者も「何がゴールなのか」を理解していなかったと考える。その上で、広報の仕事の基本とは何か、どんな人材が広報担当に就くべきかなどを自身の経験から語った。
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「いま僕がジャニーズの広報担当だったら、どうする?」
3月に英BBCが喜多川氏の性加害問題を報道し、事態が刻一刻と深刻化する中で、そんな問いを立てては、頭を抱えていました。広報担当者としてこれほど厳しい局面があるのか、と。
ただ、いろいろ考えましたが、こうした不祥事で大切なのは、まず最初に謝罪の気持ちと補償に向きあう姿勢について、メディアを通じて徹底的に発信することだと思い至りました。
【竹中さんは1981年に吉本興業に入社し、同社初の「宣伝広報室」の配属となり、タレントたちの活動を紹介する情報誌「マンスリーよしもと」の編集長も務めた。2015年に退社するまで暴力団と関係が取りざたされて引退を表明した大御所タレントの会見や、同社の非上場化、所属タレントが経営する飲食店の食中毒事件など、様々な不祥事対応に当たった。退職後は「謝罪力」「お金をかけずにモノを売る広報視点」など多数の著書を執筆し、広報にまつわる講演も開いている】
現在の会見では登壇者の座る位置や肩書、ふりがな付きの氏名を書いた資料を記者の方々に配布するのが通常ですが、私が吉本に在籍していた頃はまだ冒頭に口頭で説明することが多く、あるタレントが騒動になった会見で「広報担当役員の竹中です」と言ったのに、ある記者の方から「社長、それはどうなっているのですか」「社長、だとしたら…」などと質問を重ねられ、「すみません。僕、専務ですねん……」と返して質問者がずっこけるという経験などもありました。
ただ、大筋で広報の役割を見失ったことはないのではないか、と自負しています。様々な現場の場数を踏む中で、学んだのは危機的な局面における「ゴール」を明確に設定して、それに向かって誠実に臨むということでした。ちょっと分かりにくいかも知れませんが、そうした時の広報というのは「ゴール」に向かうための設計図を描く担当者なのです。
ところが、旧ジャニーズ事務所の対応をみると、ゴールがどこに設定されているのかが全く見えないのです。
【BBCがドキュメンタリー番組を放送後、元ジャニーズJr.が相次いで被害告発。事務所への批判が急速に高まった】
当時社長だった藤島ジュリー景子さんは5月、1分間の謝罪動画と、数枚の文書で説明責任を果たそうとしました。8月末に事務所が設置した再発防止特別チームが性加害を認定したことを受け、ようやく開かれた9月7日の会見では、性加害をした人物の名を冠した社名変更に後ろ向きな姿勢を見せました。会見に出た人たちも、ゴールがどこにあるかという認識を持っていなかったのです。
そして、極めつきが10月2日の2度目の会見ですね。
会見の場をまとめるために必要なのは、台本通りに進行する司会者ではなく、マスター・オブ・セレモニー、つまりMCだと思います。質問者が要領を得ない場合は例えば「はい。つまりこういうことですね」とかみ砕いて登壇者に投げ、「それでは○○より、お答えさせて頂きます」といったように、その場をしっかりと仕切る。そうした存在が必要です。今回、質問者を指名する立場にいた元アナウンサーには、それができていなかった。なんで、あの人選だったのでしょう。謎です。
質問順は「くじ引き」で 最後の一問まで
【旧ジャニーズ側は記者たち…
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- 【視点】
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