ノーベル平和賞、イランの人権活動家のナルゲス・モハンマディさんに
ノルウェーのノーベル委員会は6日、2023年のノーベル平和賞をイランの人権活動家、ナルゲス・モハンマディさん(51)に授与すると発表した。授賞理由は「イランにおける女性の抑圧と闘い、すべてのひとの人権と自由を促進した」としている。イラン人の受賞は03年のシリン・エバディさん以来、2人目となる。
モハンマディさんは現在、反体制的な活動をしたとして、政治犯などがいる首都テヘランのエビン刑務所に収監されている。エビン刑務所は、大学や病院などが集まる閑静な住宅街の近くに位置しており、小高い丘の上に立つ。10メートル近い高さの塀に囲まれ、監視塔の上で係官が常に目を光らせている。ノーベル委員会のライスアンデシェン委員長は「当局が正しい判断をすれば、彼女は12月の授賞式に出られる」と語った。
イラン政府系のファルス通信は6日、モハンマディさんについて「国家安全保障を侵害し、反体制的なプロパガンダを行ったために投獄されている」と主張。モハンマディさんが、受賞経験者のエバディさんから、受賞に向けて注目を集めるため、もっと過激な路線をとるよう指示されていた、などと断定した。
当局に拘束されたまま受賞が決まったのは、昨年の受賞者でベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏(61)に続き、2年連続となる。
イランでは昨年9月、当時22歳のマフサ・アミニさんが逮捕され、その後死亡した。イラン女性は公共の場で髪を隠す布「ヒジャブ(ヘジャブ)」の着用義務があり、アミニさんは着用が不適切だったとされた。これを受け、各地で「女性、命、自由」をスローガンに女性の人権尊重を訴える抗議デモが拡大。モハンマディさんも獄中からイラン政府を非難するSNS投稿を続けてきた。
昨年12月には、自らが収監されている刑務所で性的暴行や暴力が起きている実態を、SNSの投稿を通じて英公共放送BBCに告発。「民主主義や平和、人権を確かなものにして、専制政治を終わらせることが勝利だ。私たちは決して引き下がらない」と訴えた。
1972年にイラン北西部ザンジャン州に生まれたモハンマディさん。女性やマイノリティー、死刑囚の人権擁護などに尽力し、2003年のノーベル平和賞受賞者、シリン・エバディ氏らが設立した「人権擁護センター」の副所長を務める。
ノーベル委員会などによると、モハンマディさんはこれまでに13回逮捕された。20年9月に5年間の服役を終えていったん出所した。
だが、21年6月に「反国家的なプロパガンダを広めた」などの理由で再び禁錮刑を受けた。今年8月に出た別の判決により、現在の刑期は計10年9カ月となっている。
ノーベル委員会はモハンマディさんへの授与について「女性を標的にした政権の差別的かつ抑圧的な政策に対し、反対の意思を表明した数十万人の人びとを評価するものだ」とした。
また、ライスアンデシェン氏は会見で、授賞のメッセージとして「自国民の声に耳を傾けよ。市民社会に基本的人権を与え、個々人の人権を尊重せよ」と語った。
モハンマディさんは6日、米紙ニューヨーク・タイムズに「私は民主主義や自由、平等の実現のための努力を決してやめない」との声明を発表。今回の受賞がたくましさや決心、希望や情熱をより強大なものにしてくれるとし、「女性の解放が成し遂げられるまで、抑圧と闘い続けます」とした。
モハンマディさんの夫は、同じく人権活動家のタギ・ラフマニさん。ラフマニさんは14年間を刑務所で過ごした後、双子の娘と息子とともにフランスに亡命している。
モハンマディさんの家族が運営しているとされる本人のインスタグラムのアカウントは6日、受賞が決まったことを受け、家族のものとして、「自由と平等のために勇敢に闘い、世界を魅了したイランの勇気ある女性や少女たちに心からの祝福を贈ります」などとするコメントを発表した。
今年の平和賞は計351候補(259人、92団体)から選ばれた。候補や推薦者は50年間は公表されない。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億5千万円)。授賞式は賞の創設者アルフレッド・ノーベルの命日、12月10日に首都オスロで開かれる…
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- 【視点】
今回のモハンマディさんのように、当局の拘束下にある人がノーベル平和賞に選ばれたひとはこれまで4名いました。 当時のナチス政権を批判して強制収容所に送られていたドイツのジャーナリスト、カール・フォンオシエツキーさん(1935年受賞)、軍事政
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