娘のテディベアに現金隠し米国へ ノーベル賞カリコ氏の「長い旅」

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野口憲太 足立菜摘
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 2023年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの基礎技術を開発した研究者に決まった。その一人、カタリン・カリコさん(68)は冷戦下、生まれ故郷のハンガリーから研究のために米国に渡った。

 だが、思うような成果が出ず、研究を続けるか岐路に立たされていた。窮地から彼女を救うきっかけとなったのは、大学の共用コピー機の前での出来事だった。

 「ハンガリーの小さな町から始まった長い旅」。カリコさんは自身の半生をこう表現する。

 1955年ハンガリーで生まれる。父親は精肉店を営んでいた。幼いころから動物の中には何が入っているのかに強い関心を抱いていたという。

 「ニワトリを飼っていて、ニワトリが卵から出てくるところなどすべてがエキサイティングでした」

 82年に生化学の博士号を取得した後、博士研究員として国内で数年働いた。このころ、すでにmRNAに目をつけていた。

 85年、30歳のとき、博士研究員の職を得て米国に渡った。

 冷戦下、社会主義国のハンガリーでは、国外に持ち出せる現金が制限されていた。カリコさんと夫は、車を売って手にした現金を、2歳の娘が持っていたテディベアの中に縫いつけて隠し、家族3人で出国した。

 「頼れる人は誰もいない、片道チケットだった」と当時のことを語っている。

 米国では、任期付きのポストを転々とし、89年にペンシルベニア大へ移った。mRNAを使った脳卒中治療などを研究した。しかし、実験動物にmRNAを注射すると、過剰な炎症反応が起きてしまい、失敗が続いた。

 思ったような結果は出ず、95年にはmRNA研究をあきらめるか、降格と減給を受け入れて研究を続けるかの選択を迫られたが、後者を選んだ。

 転機は97年。学術誌の写し…

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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2023年10月3日11時56分 投稿
    【視点】

    ノーベル賞は個人に与えられるのでどうしても受賞者の人となりや生い立ちに焦点が当たりがちだが、彼ら彼女らの活動を可能にしてきた「場」があればこそでもある。ハンガリーから着の身着のままで流れ着いたカリコ氏を受入れ、細々と基礎研究を続け、バイオベ

    …続きを読む
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    吉岡桂子
    (朝日新聞記者=中国など国際関係)
    2023年10月3日23時3分 投稿
    【視点】

    ハンガリーの優れた人材はカリコ氏や物理学賞を受賞したクラウス氏のようにハンガリーで学んだ後、母国を離れて世界で成功した人が歴史的にも少なくないと言います。私はいま、ブダペストにいるのですが、カリコ氏のノーベル賞を祝う新聞の地元紙を眺めている

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