社員の奨学金を肩代わり、900社超 狙いは人材確保 教員採用でも

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上野創 山本知佳 高浜行人
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 人材確保を目的に、社員の奨学金返還を企業などが肩代わりする動きが広がっている。日本学生支援機構(JASSO)の「奨学金返還支援(代理返還)制度」を利用する企業は7月末時点で972社。今夏に千社を超えるとみられる。(上野創、山本知佳、高浜行人)

 「この制度をきっかけに、就職先として少しでもわが社に関心をもってくれたら」

 貸与型奨学金の代理返還制度を利用する広島市の建設会社「宮田建設」の担当者はそう話す。月の返還額の50%を上限に、計200万円まで社員の奨学金を肩代わりする。対象は新卒の新入社員だ。

 土木工事や住宅リフォームを手がける同社は社員約70人。毎年5人ほどの新規採用を見込む。しかし、「建設業界は3K(きつい・きたない・危険)のイメージがあるのか、採用計画通りにいかず、新入社員が1、2人の年もあった」と担当者は打ち明ける。

 代理返還を始めた後、同社はパンフレットの福利厚生欄に記載してアピールしてきた。これまでに、制度を利用した社員は1人だけだが、反応は良い。パンフレットを見た大学や専門学校の進路担当者から「これ、いいですね」とよく言われるという。

 大分市の建設会社「平和建設」も今春から、大卒者の採用増を目指し、返還総額の50%を上限に計250万円まで支援する。担当者は「社員の経済的・心理的負担を軽減し、安心して働ける環境を整えたい」。利用実績はまだないが、「求職者が少しでもこちらを向いてくれれば、との思いだ」と話す。

記事後半では、教員不足に悩む教育委員会や、若者の流出に悩む自治体の返還支援策についても紹介しています。

社員や企業にメリットも

 JASSOは2021年4月、奨学金の貸与を受けた本人に代わり、企業が奨学金の全額もしくは一部をJASSOに直接送金できる形で「奨学金返還支援(代理返還)制度」を始めた。活用する企業は当初の65社から増え続け、今年7月時点で972社。利用人数も21年度の813人が22年度は1708人、今年度は7月末時点で2057人と増えている。

 JASSOのホームページによると、建設業や医療関連など、制度を利用する企業は多岐にわたる。JASSOの担当者は「想定以上のニーズがあった」と語る。

 増加の背景には、「貸与型奨…

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    首藤若菜
    (立教大学教授=労働経済学)
    2023年8月17日20時38分 投稿
    【視点】

    人手不足は、教育などの社会基盤を揺るがす深刻な問題です。ですが、人手不足は、働く者にとってはチャンスでもあります。人手を確保しようと、企業は賃金を引き上げ、労働環境を整備しようとするためです。人材確保のために、企業が奨学金返済を肩代わりする

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    能條桃子
    (NOYOUTHNOJAPAN代表)
    2023年8月18日0時46分 投稿
    【視点】

    日本は、「日本型福祉社会」と掲げ、福祉を家族と企業に責任を負わす形で制度を作ってきました。企業がこのように奨学金返済支援メニューを福利厚生や採用の切り札として提示していくことは有用だと思いますし、自治体が若者を引き止める策としても存在しあり

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