第5回細菌戦部隊にいた父は酒と薬物に溺れた 息子が刻む「壊れた家族」史

有料記事戦争トラウマ 連鎖する心の傷

後藤遼太
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 軍服に革の長靴、腰に軍刀を下げた父の前に、黒豚の死体が転がっていた。

 その脇で、小柄な男が泣きながら土下座をしている。男の頭に拳銃を突きつけ、引き金に指をかけているのが、父だ。

 男が放し飼いにしている豚が、父の庭の花畑を荒らしたらしい。激高した父は「次やったら、お前を撃ち殺す」と怒鳴っていた。

 首都圏に住む男性(83)にとって、父の記憶の原点は、幼少期に見た満州の平原での光景だった。

 長い間、この映像は自分が想像でつくり上げたものだとばかり思っていた。男性は当時まだ4歳だったからだ。ある時、姉にこのことを話すと、「あったわねえ、そんなこと」と言われて驚いた。父は本当に、家族の目の前で豚を斬り捨て、飼い主に銃を突きつけていたのだ。

強烈だった父の戦争自慢

 軍医だった父は、1937年に中国戦線に出征。その後、関東軍防疫部に配属された。後に細菌戦部隊として知られる「731部隊」の前身だ。男性は、「東郷村」と呼ばれた隊員宿舎で生まれた。

【連載】戦争トラウマ 連鎖する心の傷

 悪夢、酒浸り、家族への暴力――。過酷な戦争体験からトラウマを抱え、後遺症に悩む旧日本兵たちの存在は置き去りにされてきました。ようやく語れるようになった子や孫の証言から、連鎖する心の傷の問題を考えます。

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 父がニューギニアへ配置換え…

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