踏切や駅の構造、視覚障害者がじっくり学ぶ 原寸大模型使った体験会

茂木克信
[PR]

 目の不自由な人が踏切や駅のホームで死傷する事故が後を絶たない。そうした中、原寸大の模型を使った視覚障害者向けの「鉄道施設体験会」が新潟市で開かれている。会場内は列車や車、人の往来がなく、じっくり学べると好評を得ている。

 体験会の会場は、市内の鉄道工事会社「第一建設工業」の亀田研修センター(同市江南区)。社員が実技訓練などを行う施設で、警報機付きの踏切や駅のホームのほか跨線(こせん)橋、在来線と新幹線の線路などが屋外にある。レールの幅やホームの高さなどすべて実物と同じように造られている。

 7月4日、昨年10月に続いて2回目の体験会が行われた。午前と午後にそれぞれ視覚障害のある3人ずつが参加した。

 午後の部の3人は、センター長の中村靖浩さん(63)に案内され、まずは踏切へ。軍手をはめた手でレールに触れ、幅7センチほどのすき間があるのを確認した。安全のためすき間の底にはゴムが敷いてあるが、それでも5センチほどの深さがある。

 「歩行者だけでなく、電動車いすなども車輪がはまる危険がある。線路に対して直角に進むのが一番安全な渡り方になる」と中村さん。また、渡る際に通行する端を踏み外せば約15センチ下の線路に落ちるため、「端は通行の目印になるが、落ちないように気をつけて」と重ねて注意を促した。

 非常ボタンの位置や押し方も説明した。「警報機が鳴った後、どちらに逃げればいいかわからないときは、遠慮なく『非常ボタンを押して』と大きな声を出して下さい。列車を一番早く止められるのが非常ボタンです」。警報機が鳴りだしてから列車が来るまで特急だと30秒余りしかないという。

 続いて駅に移動。3人はまずホーム上で、点字ブロックから端までの距離感や、停車した車両とのすき間を確かめた後、線路に降りてホーム下に設けられた退避スペースに入った。駅によっては退避できない構造のところもあるといい、中村さんは「皆さんが使う駅のホームがどうなっているのか、駅員に聞くなどして確かめておいてほしい」と呼びかけた。

 参加した岩崎深雪(みゆき)さん(78)=新潟市東区=は「踏切に非常ボタンがあるのは知っていたけど、形や場所は初めて知った」と話した。青木学さん(57)=同市中央区=は「もっと多くの障害者に体験する機会をいただけたら、本当にありがたい」と体験会の継続を希望した。

 藤林裕三(ひろみ)さん(61)=同市東区=は「日ごろ電車に乗っているが、普段確認できないところをいろいろ確かめられた。万が一のときに命を守れる、いい学習になった」と満足そうに語った。

 体験会は、第一建設工業新潟支店(同市中央区)とJR東日本新潟支社(同)の共催。次回は10月に予定しているという。(茂木克信)

     ◇

 昨年4月、奈良県大和郡山市の踏切で、近くに住む全盲の女性(当時50)が特急列車にはねられ、亡くなった。防犯カメラの映像では、長さ約9メートルの踏切を渡りきる前に警報機が鳴り出して立ち止まり、来た方向に戻り始めたところで事故は起きていた。

 踏切や駅のホームで視覚障害者の事故は後を絶たない。国土交通省によると、ホームから転落した事故は2021年度までの10年間に658件。これとは別に、転落後に列車と接触した事故も19件あった。

 危険と隣り合わせなのは視覚障害者に限らない。

 21年度に障害のある人が線路内やホーム上で列車と接触した事故は6件。2人が亡くなり、4人がけがを負った。うち3件は視覚障害者だったが、2件は下肢障害者、1件は聴覚障害者だった。踏切でも2件の事故があり、うち1件は聴覚障害者だった。

 00年に交通バリアフリー法が施行され、鉄道各社はホームドアの設置や点字ブロックの整備、ホームと列車の段差やすき間の解消などの対策を推進。踏切の安全対策も含め事故をなくすための取り組みを進めている。(茂木克信)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません