ダラダラスマホ習慣をやめたい 「負け」を認め、物理的に遠ざけて
2010年ごろから、我が国では急速にスマートフォンが普及してきました。
ネットやゲームの問題に取り組む専門家たちが口をそろえていうのが、「スマホの時間をコントロールするのが一番手ごわい」ということです。
たしかに、パソコンやゲーム機を電車の中で開く人はほとんどいませんが、スマホは歩きながらでも、バスでも地下鉄でも、たいていの人が持っていて、いじっています。
スマホでみなさん、何をしているのでしょう? ゲーム、ニュースを読む、チケットを買う、SNS、メール、ドラマ視聴などなど、できることは無限にあります。私たちはスマホなしでは、もはや落ち着かなくなりました。
便利な一方で、「スマホをだらだらし続けるせいで、しなくちゃいけないことができない」というお悩みも筆者のもとにはたくさん寄せられます。
「スマホで動画視聴を始めると、あっという間に2時間たっていて、資格試験の勉強が全く進まなくて自己嫌悪」
今回は、このようなダラダラスマホ習慣から脱出して、便利なスマホと上手につきあうための技をいくつかご紹介します。
ダラダラをやめる五つの方法
まず、心構えですが、
「スマホを甘く見ない」
のが大切です。ゲームも、動画も、記事も基本的には「いかに続けてみてもらうか」を考え尽くされたコンテンツです。続きが気になるようにできています。現実世界ではあり得ないような刺激をちりばめています(さえない人が、とんでもなく素晴らしい人から告白されるような)。ですからやめられなくて当然なのです。
言い換えると、スマホをやめるブレーキをかけられない自分を責めるのではなく、負けを認めるのです。「ああ、このゲームを30分間でやめられるわけがない。そう計画した私が浅はかだった。」と。そしてその代わりに、「それだけやめにくいものとこれから向き合っていくのだから、努力と根性だけでなく、さらに特別な対策を講じなければ、かなわないんだ。」と決意してください。
その上で、以下の五つの方法を試してみましょう。いずれの方法も私がADHDの方の時間管理プログラムの中で、参加者のみなさんと試行錯誤して生み出した方法です。
1. 決意を具体的にイメージする
スマホをやめたいと思っている人に多いのが「なんとなく、スマホを長時間やっていてはいけない気がする」という漠然とした理由しかないパターンです。これが「資格試験の勉強をしないと」と具体性をもつだけで、ぐんと決意が固まります。また、スマホをやめた代わりに何をするかも明確になるので、スマホがやめやすくなります。さて、あなたはスマホの代わりに何がしたいのでしょう。
2. 物理的ハードルを上げる
次に、定番ながら、力強い効果を持つのが物理的ハードルです。
寝る前に布団の中でスマホを触ってしまうのであれば、寝る場所から遠く離れたところで充電するようにします。スマホをアラームがわりに使っている人は、目覚まし時計を代わりに用意する必要があるかもしれません。しかし遠くでスマホのアラームが鳴る方が、二度寝予防にもなります。
睡眠時間を確保するためにも午後9時以降の通知はすべてオフにするような設定もできます。SNSなどの通知がこないだけで、誘因が減るのでよいでしょう。
スマホの使用時間をあらかじめ設定しておけば、制限時間がきたことを知らせてくれる機能もあります。だた、無視して続けることもできるため、この方法はなかなか難易度が高いです。
また、資格勉強をしながらついついスマホを触ってしまう場合には、タイムロックコンテナという設定した時間がくるまでは開かなくなるアクリル製のボックスを使うのもお勧めします。ネット通販などで5千円前後で購入できます。
YouTubeを見てしまう人には、あえてYouTubeアプリをスマホから消したり、ブックマークから消したりするようにおすすめしています。つまり、見始めるまでにわざと手順が多くなるようにするわけです。
こうした物理的なハードルはシンプルで取り組みやすいでしょう。もちろん家族などの協力者がいる場合には、スマホを一定時間預かってもらっておくのもありです。
3. 時間的リミットを利用する
絶対に乗り遅れられないバスや電車の出発時間から逆算して30分前からスマホを始めるというのはいかがでしょうか? なんなら、最寄り駅のホームやバス停までいって、スタートするのです。もちろん、電車やバスの出発時間にアラームをかけておきます。
そうすると、嫌でも次の用事のおかげで、スマホをやめることができます。
たいていの人は、用事が全部終わって帰宅してから、「よいしょ、さて、自由時間だ。スマホしよう。」とスマホをスタートさせがちですが、これの逆の発想です。
他にも「子どもの保育園のお迎え時間から逆算して30分前からスタート」も人気でした。保育園が閉まってしまうためお迎えだけは遅れられませんよね。
4. スマホを止めると魚が育つ
これは高校生に教えてもらったのですが、勉強中にどうしてもスマホを触ってしまう時に便利なアプリが「スマやめ」です。無料です。
「今から30分間集中して勉強するぞ」と決意したら、アプリに自分で「30分間」を設定します。そうすると、その間はスマホに触れません。LINEの通知が来ても、です。その間、魚が泳いで餌を食べながら大きく成長していきます。完全に操作をしないまま設定時間が経過すると、魚が大きくなって、コインもたまって、やがては次のレベルの別の種類の魚が購入できるようになります。
こうして、高校生たちが、「今どんな魚飼ってるの」と見せ合いながら、励まし合えるのです。もし、設定時間終了まで待ちきれずにスマホを触ってしまうと、その時間の魚の成長は台無しになってしまいます。よくできたアプリです。「スマホをやめなさい」と全面禁止にされるより、やめている間に育つんだという楽しみに変換してくれるなんていいですね。
5. いっそやりたくないこととペアに
スマホが動画視聴目的なら、日頃先延ばしがちなやりたくないことのお供にいかがでしょう。アイロンがけ、食器洗い、靴洗いに、部屋の掃除などは、基本的に手を動かしている作業です。たいていの動画はそんなに画面を直視しなくても、内容がわかるものが多いでしょう。私は漫才の動画を再生しながら、食器洗いをするのが楽しみです。
いかがでしたか? これだけ普及したスマホを0にするのは非現実的です。いかにうまく付き合うかを私たち自身、そして子どもたちにも教えていきたいですね。
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- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。