現代まとう新たなモーツァルトが 兵庫芸文の「ドン・ジョヴァンニ」

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編集委員・吉田純子
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 兵庫県立芸術文化センター西宮市)で、同センター制作、佐渡裕芸術監督のプロデュースによるモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の公演が14日から始まりました。外国人が中心のキャストによる初日を取材したクラシック音楽担当編集委員のレビューです。

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 演奏、演出、照明、衣装。様々な「歯車」が豊かに連係し、今という時代の空気をたっぷりまとう新機軸のモーツァルトが立ち現れた。

 「世界を敵に回した希代のヒール、ドン・ジョバンニと従者、そしてその他大勢の物語」というのがこの作品の通例の見立てといえるだろう。あくまで主役はドン・ジョバンニ。ロマン派の時代には、ドン・ジョバンニ(ドン・ジュアン)という男のデモーニッシュな魅力に多くの芸術家が陶酔し、憑(つ)かれたようにその本質を論じ合っていた。

 しかし、今回のプロダクションでは主客転倒。主役はドン・ジョバンニと従者レポレッロのコンビではなく、「その他大勢」として束ねられた人々の方となる。ドン・ジョバンニという「劇薬」を触媒に、社会的通念から解き放たれ、めいっぱい愛し、憎み、怒り、嫉妬し、嘆き、笑う。人間としての感情を取り戻し、それぞれの人生の価値に目覚めてゆく市井の人々の物語として、「ドン・ジョバンニ」は新たな生を得た。

 まず序盤、佐渡率いる同劇場の若手オーケストラのつくる世界に意表を突かれる。響きの重心が低く、テンポも異様に遅い。小林秀雄もびっくりの、疾走しないモーツァルト。正直、戸惑った。

 しかし、第1幕半ばで腑(ふ…

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