地位やお金は大切か インド仏教僧・佐々井秀嶺さん「欲は人の本性」

有料記事こころのはなし

聞き手・高橋美佐子
[PR]

 生成AI(人工知能)のChatGPTチャットGPT)など、最先端のITが世界を大きく変えようとしている。手がけた人々は、きっと地位と巨万の富を得るのだろう。しかし、それで人生は満たされるのだろうか。僧侶の佐々井秀嶺(しゅうれい)さん(87)は半世紀以上前、仏教発祥の地インドへ裸一貫で渡り、仏教再興に奮闘している。身にまとうのは「糞掃衣(ふんぞうえ)」と呼ばれる質素な布。14億人という世界一の人口を抱え、かつヒンドゥー教徒が8割を占める異国で、仏教界を率いる最高指導者の一人となった佐々井さんに話を聴いた。

悩みを抱えた「大金持ち」

 ――昨秋、日本から訪ねてきた40代男性が得度を受けたそうですね。有名なベンチャー投資家だった人物とか。

 いきなりやってきたんですよ、中部の都市ナグプールにある我がインドラ寺へ。従業員1千人を抱える元社長で旅の途中というが、顔を見ただけで人生に迷っていると感じた。だから「坊主になったら、どうだ?」と提案したんです。2週間後、10万人が集う年1回の大改宗式が催されるタイミングで戻ってきて、「出家します」と言ってきた。頭をそったので、衣と名前を与えました。

 インドでは僧侶の妻帯を認めないが、彼は既婚者で、今から全財産を妻に委ねて生まれ変わるという。インドの衣を着て日本で活動することを許しました。勉強熱心で経営を知っているせいか、仏法を専門用語を使わずに非常にわかりやすく説く。最近は教育現場や企業からも話を聴きたいと声がかかるらしいです。

 ――今年5月末から1カ月ほど、一時帰国して各地を巡りました。4年ぶりの祖国です。

 1965年に離れてから2009年まで一度も日本の土を踏まず、故郷の親きょうだいとも音信不通でした。その後も数回は日本に戻り、様々な宗派の寺に赴いて縁ある方々の墓参りや講演のほか、行く先々で大勢の方々と交流しています。今回も25歳で得度した東京の高尾山薬王院をはじめ、京都、和歌山、島根、長野など10以上の都府県に足を運びました。弟子の運転で走行距離5千キロ以上という長旅でした。

 今回の道中、アポなしで会いに来た70代の男性がいたんです。名前を尋ねると「『大金持ち』と覚えていただければ」と返され、びっくりしました。その後、俺の目をじーっと見て、死にたいような、さみしそうな顔で話を聴いていたんだ。後から3千億円の資産がある人だと知って、宿題をもらった気分になりました。

 ――宿題、ですか。

 そう。この人は一体どうすれば救われるんだろうと。実は前にも似た経験があります。

ここから続き

 日本の高齢女性が俺に総額1…

この記事は有料記事です。残り2331文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません