自分は何者なのか? 投票箱前で問いかける 日本と違うある「要素」
人は投票箱に向かうとき、どんなことを考えるだろうか。
景気対策? 子育て問題? 地域振興? 候補者の人柄?
どれも大切な判断材料だ。ただ、5月に行われたトルコの大統領選では、日本とはちょっと違う、「重要な要素」があったと思う。そしてそのことが、エルドアン大統領(69)の勝利、約20年にわたる長期政権の継続につながった。
選挙から約2週間後の6月中旬、私は支局のある最大都市イスタンブールから直線距離で約900キロ離れた農村地帯に向かった。その「重要な要素」を感じ取ることができると思ったからだ。
国土の北にある黒海沿いの街で飛行機を降り、レンタカーで当地へ。つづら折りの山道には霧がかかり、渓流が見える。初任地だった山梨県の山村の風情に重なった。
トルコ全81県で最も人口の少ない約8万4千人(2022年統計)が暮らす、北東部のバイブルト県。山々に囲まれた内陸部にあり、牧畜で生計を立てる人も多い。
今回の大統領選は1回目の投票で決着がつかず、決選投票にもつれ込んだ。投票率は約84%。エルドアン氏が52・18%を獲得し、47・82%だった野党6党の統一候補のクルチダルオール氏(74)を破った。
「薄氷の勝利」とも言えたエルドアン氏だったが、バイブルト県での得票率は全県で唯一、80%を超えた。
中心都市から約50キロ走ると、ギョクチェデレという地区がある。時計台が立つ中央広場には雑貨屋や茶屋が数軒並ぶだけ。牛を連れて歩く人の後ろに、エルドアン氏率いる与党・公正発展党(AKP)の看板が見えた。人口は2500人ほどだ。
エルドアン氏、得票率98%の地区
トルコ選管当局のデータを元に計算すると、ギョクチェデレでのエルドアン氏の得票率は98・3%だった。
鶏やガチョウがかっぽする細い路地を進むと、トラクターの修理をする男性がいた。牧畜業のヤクプ・アクダーさん(49)。「大統領選の取材に来ました」と声をかけると、「なんで日本人が」と驚きつつ、「あれを見て」とうれしそうに指をさした。
白壁の2階建ての自宅に、エ…
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- 【解説】
先日、地経学オンラインサロンで朝日新聞の春日さんとトルコ大統領選の話をしたが、その後任の高野記者による現地ルポ。トルコの農村部におけるエルドアン人気の強さとその理由が示されていて、春日さんとの対話で出てきた話が裏付けられている。ただ、「日本
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