第3回「見ろ!紙幣だぞ」幅31センチの激戦区 生活困窮者が映す英国の姿
イングランド中部の最大都市バーミンガム(人口115万人)に到着した。産業革命期を代表する工業都市で、今も首都ロンドン以外で最大級の経済圏だが、1人当たりの国内総生産(GDP)が全国平均を大きく下回るなど、貧困問題を抱えている。
作家ジョージ・オーウェルも北部に向かう途中で立ち寄り、昼食をとったことを日記に残している。
私も、この街には取材で何度か来たが、中心部の交差点には毎日、男性が立っている。いったい何をしているのか。
信号は青が37秒間、次に赤が48秒間。その繰り返しだ。男性の勝負は、車が赤信号で止まる48秒間に訪れる。
赤信号になると、3車線に次々と車が止まり、50台ほどの車列をつくる。男性は、その車の間を縫うように急ぎ足で進み、目線を運転手に送る。小銭をくれないか――と。
運転手が窓を下ろすと、男性は駆け寄って右腕をピンと伸ばし、握りしめた紙コップを差し出す。
勝負の48秒間が過ぎると、車が一斉に走り始める。男性はヒョイッと車道の脇にある縁石に身を寄せる。車にはねられないように。
縁石は幅31センチ。ぎりぎりを走ってくる大型車のサイドミラーは、男性の頭部を直撃しそうになる。
これを38回も繰り返したところで、男性は私の存在に気付き、声を掛けてきた。「おまえもカネないのか?」
男性は、私が順番を待っていると勘違いしたようだ。私は否定し、記者であることを伝えた。すると男性は「俺はボスだ。ボスと呼んでくれ」と握手のため手を差し出してきた。取材に応じてくれるという。
交差点で運転手から小銭を集めていた男性ボスが取材に応じてくれました。記事後半では、彼ら生活困窮者の話を紹介します。それぞれの言葉で現代イギリスを語ってくれました。
男性が説明してくれた…
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