広島サミット、声あげた若者たち 感じた「もどかしさ」、手ごたえも
広島で開かれたG7サミットでは、核兵器に加え、気候変動やジェンダーなど世界的な課題について首脳たちが意見を交わした。なかなか変わらない現状に向き合いながら、市民の立場から声を上げた20代や30代の人たちがいる。
「核が使われた場所が、核を持つ国々や依存する国々によって占有されちゃった感じがして、もどかしさみたいなものを感じました」
サミット初日の19日、首脳らが訪れた後の平和記念公園を背景にして高橋悠太さん(22)は、スマートフォンのカメラに向かって語りかけた。サミット期間中、連日、オンライン配信に臨んだ。
広島県福山市出身で、核兵器廃絶を目指す若者らの団体「カクワカ広島」の共同代表を務める。中学生のとき、広島を代表する被爆者、坪井直さんから体験を聞いたことが原点だ。
昨年、オーストリア・ウィーンで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議や米国ニューヨークであったNPT(核不拡散条約)再検討会議も現地で見届けた。全国の自治体も訪れ、首長や議員らと対話を重ねている。
今回のサミットについて、開催前から「G7は核保有国や核に依存する大きな国々の集まり。変化を起こさないために、これまでのやり方を踏襲するはずだ」と感じていた。
実際、首脳らがまとめた核軍縮に関する「広島ビジョン」は、核兵器の存在を容認する内容だった。「広島に来て、被爆者に会い、資料館を見た意義が反映されていない感じがする」
変わらないのは、核兵器をめぐる方針を政府や首脳だけで決めるからでは、と思う。「市民も政府や財界と並ぶ大きな存在だということを見せていかないといけない」
広島出身の短大生、奥野華子さん(21)は、サミットで気候変動問題について具体的な対策を議論することを期待していた。だが、20日に発表されたG7首脳声明では、石炭火力のうち温室効果ガスの排出削減対策が講じられていないものについて「2035年までにフェーズアウト(段階的廃止)を加速する」とされた。「それでは遅すぎる。不十分だ」と思う。「気候変動の影響をより受ける地域への支援が不可欠だとはしているが、支援の拡大が見えていない。残念だ」とも話した。
19年、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんの演説を動画配信サイトで見て、環境問題への意識が高まった。世界中の同年代の若者の間に広まった「Fridays For Future」の広島支部を立ち上げた。サミットが始まる前日には原爆ドーム前で気候変動について議論するよう訴えるアクションにも参加した。
サミットで、広島市民の生活には多くの影響が出た。「これだけの影響を与えておきながら、未来を守る内容の声明が出てこないことに怒りを感じる」と話した。
前進を感じた人もいる。
レズビアン(女性同性愛者)の西山朗(あきら)さん(34)=東京都品川区=は、サミット前日から閉幕まで広島市に滞在し、仲間と会見を開いたり、その様子をSNSに投稿したりと連日発信を続けた。
性的マイノリティーの人権保護をサミットの議題にしてほしいと呼びかけるため、3月に発足した市民グループ「Pride(プライド)7」で国内の実行委員を務めた。
「誰かが言わなきゃ、行動しなきゃ、物事は変わらない」。不平等や不正義がある日本社会への怒りが、原動力だった。
日本はG7各国の中で唯一、同性カップルへの法的保障も、性的マイノリティーの差別を禁止する枠組みもない。G7首脳声明は、そんな日本を動かす後押しになれば、と期待を持てるものだった。
「ジェンダー」の項目に「世界中の女性及び女児並びにLGBTQIA+(LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と基本的自由に対するあらゆる侵害を強く非難する」と明記されたからだ。「日本政府には声明に沿うように確実に実行してほしい。日本が議長国のサミットでまとまった声明なんだから」
求めてきたすべての点が声明に盛り込まれたわけではない。でも、「言うべきことをはっきり力強く言ってきた自分たちを誇りに思います」。
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