ローカル鉄道の課題に向き合う 元JR貨物の経験生かして恩返し

坂田達郎
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 鉄道貨物輸送の世界で20年余り働き、独立して仕事の幅を広げた経験と情熱をローカル鉄道に注ぎ込む――。東京から山形県長井市に移住した男性が、老朽化した鉄道施設と向きあい、鉄道をいかしたまちづくりの担い手になる。

 「山形鉄道を日本で一番、世界で一番進んでいる形の鉄道会社にしたい。新しい切り口を出したい」

 重田英貴(しげたえいき)さん(54)は5月10日、山形鉄道の長井駅と一体になった市庁舎で、同鉄道会長の内谷重治市長から地域おこし協力隊の辞令を受け、抱負を語った。

 東京出身。大学卒業後、JR貨物に23年間勤め、車両管理や安全対策、技術的な業務など幅広い仕事をした。多くを学び、「次の20年は、自分がもらったものを地域や社会のために伝えたい」と2014年に退社。40代半ばで鉄道事業を支援する会社を設立した。

 インド、カザフスタン、タイ、モンゴルなど、主に海外の国営鉄道や関係省庁へのコンサルティング業務にあたった。鉄道施設や車両、運行管理システムなどをどう最適化し、コスト管理を進めるか。日本で培われたノウハウを伝えた。

 しかし、コロナ禍で状況は一変する。プロジェクトの停止や延期が相次いだ。そんな中で、車両や信号など施設の老朽化に直面する山形鉄道の現状を知る。

 長井市は地域おこし協力隊を募集しており、重田さんは鉄道を活用したまちづくりをテーマに応募した。

 山形鉄道は県と沿線2市2町などが設立した第三セクター。フラワー長井線として赤湯駅(南陽市)と荒砥駅(白鷹町)の30・5キロを結び、線路などの施設を行政が持つ「上下分離」を導入している。1両か2両編成で走り、6両ある車両は30年以上使用。1両約2億円で、厳しい経営状況下で更新は容易ではない。

 重田さんはバッテリーを使った車両の導入や、赤湯駅で新幹線と直結する利点を生かすなど構想を巡らせる。鉄道はネットワークの維持も観光面などで欠かせない。一部の線路を共用するJR米坂線は昨夏の豪雨で被害を受け、今泉(長井市)―坂町(新潟県村上市)間で運休しており、復旧にも期待を寄せる。

 「鉄道を維持していくためには、地域との密着度が原動力になる。山形鉄道は、高校生を中心に住民の足になっている点は強みになる」と重田さん。妻、大学生と高校生の子ども2人を東京都品川区に残し、単身赴任で沿線地域が誇るローカル鉄道を磨きあげる。

 地域おこし協力隊は国が自治体に財政支援し、任期は最長3年。長井市の隊員は計16人になった。(坂田達郎)

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