「プールで泳げる」は慢心 水辺の安全へ、ライフジャケットは人数分

有料記事

編集委員・中小路徹
[PR]

 毎年、日差しが強くなってくる5月ごろから、水辺で遊んでいた子どもの水難事故が目立つようになる。長男を川での事故で失った吉川優子さん(51)は、自然から多くの学びを得るためにこそ、「無防備な状態のリスクを知って欲しい」と訴える。(編集委員・中小路徹

 長男の慎之介さんが増水した川に流されて亡くなったのは、2012年7月20日。愛媛県西条市の私立幼稚園のお泊まり保育中の水遊びでのことだった。

 川遊びをしていたのは、園児31人と引率の園職員8人。慎之介さんのほか、園児3人と園職員1人も流されたが、助かった。事故当時は好天。4時間半ほど前に降っていたにわか雨が影響したことが、あとになって分かった。

 「事故直後から、夫が増水の原因の収集を始めました。園の方は『何も話せない』という対応でした。そんな中、保護者会の方々が『子どもたちの記憶が薄れる前に検証しよう』と申し出てくれました」

 現場で検証が行われたのは、事故から4日後。子どもたちがどこにいたのか、水がどれくらい増えたか。保護者たちが子どもから聞き取り、当時の様子を再現した。

 「子どもたちから『知らない先生が助けてくれた、抱っこしてくれた』と、『知らない先生』という言葉がたくさん出てきました。それにショックを受けました」

 救助や通報をしたのは、宿泊予定だった施設のスタッフや、居合わせた観光客たちだったのだ。

 その後、園の職員も参加して再度の検証を行った結果、わかったのは、事故への備えを何もしていなかったことだった。

 「ライフジャケットや浮き具とか、何も持っていなかった。事前説明会では『浅い場所での水遊び』とのことでしたが、実際には深く、川遊びにふさわしくない地形だった」

 残念ながら、安全に関する意識が薄かったことを確認する場になってしまった。

 子どもを預けた側にも、悔やみきれない思いがある。「私を含めて、幼稚園がやることだから大丈夫だろうと、保護者みんなが思っていた。関心事は夜、子どもたちが寝られるかどうか。水遊びのリスクが一番高いのに、関心の順位が低かった」

 事故をきっかけに、夫と「吉川慎之介記念基金」をつくった。川や湖、海など水辺の活動での事故予防の啓発活動をし、公的な仕組みづくりを訴え続けている。

 警察庁の統計によると、18年~22年に、中学生以下の子どもは69人が水難で亡くなっている。

 子どもが安全に水辺で遊ぶため、個々の大人ができることは何か。

 「準備不足が一番の事故要因です。無防備な状態で遊ばないことです。まずライフジャケットは人数分用意。何かあった時、助けに行く時の安全を守るため、大人の分も必要です。特に川はライフセーバーがいません」

 事故は、遊泳禁止区域でも、たくさん起きている。安全な水辺がどこなのかを調べていくことも必要だという。情報収集の大切さは、天気予報に限らない。

 「予定の組み方も大切です。例えば、大人たちが食事している間に、子どもたちを水辺で自由に遊ばせるのは危険です。一緒に遊び、一緒に食べるように。大人が大勢いても、子どもの事故は起きています。誰かが見てくれるだろうと思わず、自分の目の届くところで遊ばせることが基本です」

 プールで泳げるから大丈夫、という慢心も危険だと指摘する。

 「プールで泳ぐ感覚のまま、自然域の水辺に出ることも禁物です。人工的な場所とは全然違います。自然域には流れや波があり、岩、砂があり、生き物がいる。急に足をとられることがあります」

 大学に出向き、教員や保育士…

この記事は有料記事です。残り1145文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら