パリのストと日本のメーデーで考えた 「便利さよりも大事なこと」

有料記事多事奏論

編集委員・後藤洋平
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記者コラム 「多事奏論」 編集委員・後藤洋平

 今年も労働者の祭典の季節が訪れた。といっても、私は社会人25年目の今回までメーデーの集いなどを訪れたことはなく、今回初めて足を運んでみようと思い至った。3カ月半前、遠い地で労働者の団結を目の当たりにしたことを思い出したからだ。

 8年前に放送と兼務ながらファッション担当になり、コレクション取材のため、継続的にパリを訪れるようになった。流行ブランドのファッションショー取材といえば最先端の服を誰よりも早く間近で見ることができ、世界中からセレブたちも駆けつける。華やかな現場だと思っていたが、実際は過酷だ。

 朝早くから夜遅くまで、10近いブランドのショー会場を連日ハシゴする。その間に展示会やインタビュー取材が入り、夜遅くホテルに戻った途端にベッドに倒れ込んで気を失うことも珍しくない。

 東京コレクションでは多くのブランドが主に渋谷の商業施設の同じホールでショーを開催するが、ミラノやパリではブランドごとにそれぞれ独自のショー会場を設営するので、移動に神経を使う。会場間は主催者が用意する無料バスがあるが、パリ中心部の道は慢性的に渋滞気味で、足止めをくらって少しでも遅れれば会場に入れなくなる。

 近年人気ブランドのショーは必ずライブ配信されるため、場内の各所にカメラが設置されている。そうした演出上の都合でモデル以外の人の動きが映り込まないようにするためだ。重要なショーに間に合わなければ何をしに来たのか分からない。

 そんな中で最も頼りになるのは、市内に張り巡らされた地下鉄だ。初めて訪れた際にはヴァレンティノのショーに向かう際に渋滞に巻き込まれ、途中で地下鉄に飛び乗った。なんとかギリギリ間に合ったが、会場に入ったとたんに入り口のドアがバタンと閉ざされて肝を冷やした。

 しかし、落とし穴もある。た…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年5月8日18時30分 投稿
    【視点】

    メーデーは春の季語。次のように先人の俳句を並べてみると、デモの参加者として詠まれた句もあれば、傍観者として詠まれた句もある。<ごみ箱>の句の作者の立ち位置は傍観者であり、<ねむき子>の句の作者と<ガスタンク>の句の作者は同じ参加者であっても

    …続きを読む