聞き手=伊藤宏樹
1953年2月に日本でテレビ放送が始まってから70年の節目を迎えました。公共放送であるNHKが、ドラマの分野で果たしてきた歩みや、今後求められる役割について、テレビドラマや演劇の研究を続ける早稲田大学坪内博士記念演劇博物館の前館長で文学学術院教授の岡室美奈子さん(64)に聞きました。
――ドラマ分野でのNHKの存在感をどう見ていますか
昨年は関西テレビ制作の「エルピス―希望、あるいは災い―」(フジテレビ系)がすばらしかったですね。これを民放がやったのはすごく意義のあることです。
逆になぜNHKができなかったのか。NHKは広告主がいないから、誰かに忖度(そんたく)する必要がなくて一番大胆なことができるはずなのに、局全体としてすごく政治のほうに気を使っているように見えます。誰にも忖度しない自由な表現をめざしてほしいと強く思います。
エルピスの脚本を担当した渡辺あやさんは、NHKの連続テレビ小説「カーネーション」(2011年)も手がけましたが、これは戦争表象がすばらしかった。市井の美容院のおばちゃんが、息子が戦争で死んで被害者だって思っていたら、自分たちもやられるほうじゃなく、やったほうだと気がついていくという展開でした。
NHKの受信料は、公共放送という仕組みを支えるためのお金です。だから視聴率とかスポンサーとか忖度とか、そういうものとは無縁のところでドラマを作ることができるんです。そこにNHKがドラマを作る意味があるのだと思います。
――ドラマを含めて、民間にできることに公共放送が取り組む必要があるのか、という意見もあります
例えばドラマは民放が作ればいいという考え方ですか? それはむちゃくちゃだと思いますよ。ドラマの意味や価値を理解していただきたいものです。
NHKが作り続ける朝ドラは、「テレビ離れ」の時代にも役割を果たしてきたと岡室さんは考えます。ただ、インターネットで誰もが感想を発信できる時代に、ある変化も起きていると感じています。
政権中枢にいる首相秘書官でさ…