コロナ下で閉じた人間関係、増える女性の自殺 多くの未遂歴ある人も

有料記事

聞き手・山内深紗子
[PR]

 日本では毎年2万人超が自殺で亡くなっています。G7主要7カ国)の中で自殺率が高く、女性の自殺者数はトップです。その背景や自殺対策の現在地などについて、NPO法人「ライフリンク」の清水康之代表(51)に聞きました。

 ――昨年の自殺者数は2万1881人でした。1日に60人弱の方が死を選んでいます。現状をどうみていますか?

 2003年に自殺で亡くなる人は、3万4千人と最多になり、06年に自殺対策基本法ができて、その後2万人台まで減りましたが、下げ止まっている状況です。

 日本社会に、「死にたい」「消えたい」と思わせるような悪い意味での条件が整っている。この視点を強調して発信し続けなければならないと思っています。

 ――ライフリンクが、自殺者523人の実態調査をしました。そこから見えてきたこととは?

 その多くが「追い込まれた死」でした。自ら死を積極的に選んでいるわけではない実態が見えてきました。その人らしく生きるための条件が失われていたのです。

 自殺で亡くなった人は平均で四つの悩みや課題を抱えていた。理由が複合的であることも分かりました。と同時に、じわじわと自殺に向かって追い詰められている。自殺の行為だけでみると瞬間的ですが、そこに追い込まれていく過程をみるという捉え直しが必要なのです。

 さらに重要な発見は、職業や立場によって、自殺に追い込まれる状況には一定の規則性があることです。

 例えば失業者であれば、失業したことで生活苦に陥り、借金を抱え、精神的に追い込まれて自殺に至る。働く人なら、配置転換などの職場環境の変化で過労に陥り、人間関係の悪化も重なりうつになり自殺に至るといったものです。

 こうした自殺の典型的な危機経路が明らかになってきました。原因が社会性を帯びているのです。自殺は個人的な問題であると同時に、社会的な問題として捉えるべきです。

 毎年2万人台前半の人が自殺で亡くなっています。1年間、この社会をこのまま回していくと、2万人が「もう生きていられない」状況に追い込まれる社会構造だとも言えます。

 ――コロナ下、女性の自殺が増えました。どうみていますか?

 コロナ下で人の移動が難しくなりました。人間関係が閉じて固定化された中で、より家父長による支配関係の効力が強まってしまった可能性があります。

 G7の中で女性の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)が最も高いのは、社会的な男女格差が大きいことが影響していると考えられます。

 ライフリンクが調べた実態調査では、女性は159人でした。若年女性は自殺未遂歴がある人が多かったのも特徴です。5回以上といった回数の多さも目立ちました。

 そして、女性は男性と比べると、自殺の要因となったものを抱えてから死に至るまでの平均年数が長くなっています。

 男性は経済困窮が大きな要因になることが多いのですが、女性は人間関係や精神疾患などが原因で、時間をかけて死に至る傾向が見えました。ただ、この調査の対象が無作為抽出ではなく、主婦が71人と多かったことも影響している可能性があります。

 ――1990年代に自殺が急増し、2003年に最多の3万4千人になりました。06年に自殺対策基本法が成立し、2万人台の前半まで4割減りました。他方、小中高の子どもの自殺は増えています。国内の自殺対策の現在地は今どこになりますか?

 10をゴールとすれば、今は5だと思います。

 06年に自殺対策基本法が施行され、16年の大改正で都道府県と市町村で地域自殺対策計画をつくることが義務づけられました。

 市町村単位で自殺者の性別、年代、職業、原因、同居人の有無など細かいデータを把握することができ、それに基づき計画をつくり、関係機関が連携して対策にあたるようになりました。研修も行い、首長がその旗振り役を担うという自覚も生まれてきています。計画を策定しているのは、都道府県はすべてですし、市町村も95%にのぼります。

 検証も進められ、自殺総合対策大綱が見直される度に地域自殺対策計画策定のガイドラインも見直されることになっており、ようやく日本の自殺対策のPDCA(計画・実行・評価・改善)が循環する状態まできました。その意味で5です。

 ただ自殺者は下げ止まっているとはいえ、2万人台です。まず、課題としては、子どもの自殺の実態解明をして、それに基づき総合戦略を立て、関係機関が連携し、対策を推進する流れをつくらなければいけません。

 そしてもうひとつの課題は、社会全体の自殺リスクを減らすために、社会保障介護制度など大枠の制度も変える流れに持っていく必要があると思っています。

 大綱でも、うつや失業など多岐にわたる「対人支援」のレベル、それらの原因を解決していくために包括的な支援が行えるようにする「地域の連携」のレベル、地域の連携を支える基盤となる「社会制度」のレベルをそれぞれ強くして、連動させて自殺対策を進めることをうたっています。

 まだ2万人を超える人が亡くなり、子どもの自殺が増えています。自殺対策のPDCAがまわっていないということです。そこの課題が残る5の部分だと思っています。

 ――自殺の危機経路を断つた…

この記事は有料記事です。残り1378文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら