思い刻んだ物件、古材で再生 空き家活用へ取り組み

遠藤和希
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 空き家バンクに掲載されず、持ち主が活用法に悩むうちに老朽化が進んでしまう空き家。そんな物件を掘り起こし、再生に結びつけている企業が長野市にある。古民家解体で出た古材を使った飲食店の設計や施工を手がける「山翠(さんすい)舎」。舞い込んだ開店の相談と空き家の持ち主をつなぎ、家族の歴史が詰まった住宅への思いも生かして活用法を提案する。

 古民家の移築や解体も手がける山翠舎では、取り壊し工事などで買い取った木材を「古木(こぼく)」と名付けて活用。専用倉庫に5千本ある在庫を、店舗などの開業支援事業に生かす。

 長野市の善光寺近くに昨年10月、山翠舎が開設したワーキングスペース「FEAT(フィート).space(スペース)大門」も古木を活用して再生した空き家の一つ。持ち主からの相談をきっかけに、築約60年の建物を改修した。古木や土壁で落ち着きのある空間に仕上げ、2階建ての建物をイベントスペースやカフェ併設の交流スペースとして運営する。

 建物の持ち主は市内で日用品製造などを手がけるマルナカ通商。問屋街として栄えた同市東町の倉庫だった建物は、かつて手がけたインテリア部門のじゅうたんやカーテンが残されたまま使われていなかった。

 ただ、建物がたつ場所はもともと会社が本社を構えた地区で建物への思い入れも強かった。建物の生い立ちをふまえ、街のにぎわいづくりにも役立てるというアイデアに同社の中村知枝子社長(69)は「今までとは違う使い方の提案を頂いた。歴史も大切にしたいということで大変ありがたかった」と振りかえる。

 山翠舎の強みは、長年にわたる古民家再生や古材の施工などで培われた技術と500超の実績からくる東京などの事業者とのつながりだ。その上で、古木の「貯蓄」もある。古木を扱う専門の設計施工会社に飲食店などから寄せられる開店相談は多岐にわたる。

 空き家を生かす際に重要になるのが、活用する意思のある事業者と持ち主のマッチング。首都圏などから事業者を引き込み、活用法を含めた提案で持ち主の相談にワンストップで応え、空き家の再生に結びつけてきた。

 ただ、県内のある不動産業者は「所有者はある程度資産があることも多い。活用の壁になるのがお金ではないところに理由があるケースも多い」と明かす。

 山翠舎の山上浩明社長(46)も「例えば空き家に仏間があると、そこは思いが詰まっているので動かせない。そうなると部分的な改修になって進みにくい。地方の人間関係で活性化が拒まれることもある」と指摘する。そこで、同社は仏間の移築など、悩みを抱える持ち主の思いに沿った解決策の提案を掲げてきた。

 この山翠舎に依頼して蔵をリノベーションして開店したのが善光寺前にある「信州門前ベーカリー蔵」。所有者の60代の男性は「山上社長にパン屋として改築する魅力的な提案をもらった。この蔵は立地も良くて貸してくれという引き合いが毎年あったが、思いの詰まった品の整理も大変でなかなか動かなかった」という。

 建物は築120年で、麻問屋の蔵や米蔵として使われていたが、その後、空き家になっていた。

 自身はサラリーマンで副業もできない。山翠舎を通じて店を事業者に任せるかたちで一昨年12月にベーカリーとしてオープンした。

 蔵にあった品物の整理は、費用を家賃から割り引く形で山翠舎に任せることもできた。国の空き家活用の補助金の後押しも大きかった。「持ち出しや片付けなどの負担が大きいとその分だけ活用しづらくなるので、合わせて提案をもらって助かった。蔵を通じ、地域を盛り上げたい」

 山上社長がめざすのは、古木や空き家の活用を通じた街の活性化。「ストックとして持っている古木と、歴史や文化のあるまち並みを掛け合わせることで、それぞれの魅力を引き出し、高めていける」(遠藤和希)

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