うんざりだ、人権を「多数決」で決める無関心な社会 石原燃さん寄稿

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寄稿 劇作家・石原燃さん

 年末にまた嬰児(えいじ)の遺棄事件が起きた。

 2022年に入ってから、20件目の事件だった。私がネットで検索して数えただけなので、見落としているものもあるかもしれない。いずれにしろ、氷山の一角だろう。コインロッカーベイビーが社会問題になったのは1970年代のことだが、その後、問題が解決したわけではなく、いまもこうして事件は起き続けている。

いしはら・ねん 1972年生まれ。性暴力、「慰安婦」問題など社会問題を描く。作品に戯曲「彼女たちの断片」「蘇(よみがえ)る魚たち」「白い花を隠す」、小説「赤い砂を蹴る」など。

 こういう事件が起きるたび、事件そのものの痛ましさとは別に、ネットニュースのコメント欄やSNSの反応に気分が重くなる。一番多い反応は、逮捕された「女性」が反省しているかどうかジャッジしようとするもの。反省している様子なら非難する人は少なくなるが、「情報弱者」だと笑われたり、気の毒だと同情されたりするのは変わらない。そこにあるのは「罪」を犯した人に対するゴシップ的な興味だけで、公的機関の責務や、医療や法律の欠陥が議論になることはほとんどない。つまりは、その人の人権が侵害されているという視点が皆無なのだ。

 なかには、「男性も逮捕され…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年1月6日11時18分 投稿
    【視点】

    必読の意見。一点だけ補足するなら、中盤の「すべてが細切れ」の部分。 該当部分は以下。 「しかし日本では、妊娠する身体を持つ人の「性と生殖に関する健康と権利」を実現しなくてはならないという共通目標が掲げられていないので、さまざまな

    …続きを読む
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    高久潤
    (朝日新聞エルサレム支局長=文化、消費)
    2023年1月9日10時54分 投稿
    【視点】

    文章を読んでいると、ある地点で読み進めるのが止まる瞬間があります。多くの場合、とても興味深い文章で。この文章もそうでした。 〈人権ってなんかうさん臭いという偏見のなかで、多数決に勝つことを求められるのは、もううんざりだ・・・〉

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