臓器移植法施行25年 伸びない提供数、コーディネーター不足も課題

山内深紗子
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 脳死判定された人からの臓器提供を認める「臓器移植法」の施行から、今年で25年を迎えた。

 日本臓器移植ネットワークによると、移植希望の登録をしている人は10月末時点で約1万6千人にのぼる。一方で10月16日までの脳死下の臓器提供数は計878件にとどまる。

 国際的なデータベースによると、心停止後を含む21年の日本の提供件数は人口100万人あたり0.62。米国の41.88、スペインの40.20、韓国の8.56などに比べると低く、63カ国・地域中60位だ。

 21年度の内閣府世論調査では、脳死と判定された場合、「提供したい」「どちらかといえば提供したい」と回答した人は約4割にのぼるが、提供するかどうかの意思表示をしている人は1割ほどにとどまった。

 日本臓器移植ネットワークの門田守人理事長(77)は「日本は医療レベルも高く、提供したい人もいる。つなげる仕組みを整えれば、救える命があることを知って欲しい」と話す。

 壁のひとつと考えられるのが、脳死下で臓器提供ができる医療機関が限られることだ。

 大学病院など全国約900の医療機関が国のガイドラインを満たしているが、今年3月に厚生労働省の臓器移植委員会がまとめた提言書によると、提供ができる体制が整っていない施設が半数もあった。

 終末期に医療機関から家族へ臓器提供に関する情報が十分に伝えられていないという課題もある。

 門田理事長は「医療機関の体制が整っていないことや、家族に臓器提供の諾否の選択肢があることが伝えられていないことによって、提供したい人の意思をつなげることができず、海外諸国との差になっている」と指摘する。

 国は患者が重篤になったときに、家族に治療方針やどのような最期を希望するかについて話をきく「入院時重症患者対応メディエーター」の養成を始めた。

 本人や家族が臓器移植を望んでいる場合、正確な情報を伝え、医師などの負担を軽減する役割も期待されている。

 ドナーやその家族の意思決定の支援やケアを担う臓器移植コーディネーターの体制強化も課題だ。日本臓器移植ネットワークには移植コーディネーターが約30人いるほか、各都道府県に約60人が配置されている。移植を受ける患者のケアを担うレシピエント移植コーディネーターも190人ほど認定されており、その多くが看護師だ。

 滋慶医療科学大学大学院の萩原邦子准教授(55)はオーストラリアで学んだ後、1997年から今年3月までレシピエント移植コーディネーターを務め、患者やその家族が抱える悩みや不安に、臨床心理士を含めた心のケアチームで向き合ってきた。

 患者には、移植はドナーの意思を継いで成り立つ医療であること、拒絶反応や合併症が起こることもあり、移植を受けても必ず元気になるとは限らないこと、免疫抑制剤を決められた時間に飲み続ける必要があることなどを説明する。命を継ぐことについての悩みを傾聴し、ときには臨床心理士につなげることもある。

 萩原さんによると、専従のレシピエント移植コーディネーターを置く施設は限られているという。

 「移植医療は社会性も帯びた特殊な医療のひとつ。脳死移植に限らず、生体移植でも悩みは深い。それを受け止められるよう、専門性を担保して、より質の高い支援ができる態勢を早く整える必要がある」と訴える。(山内深紗子)

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