「歴史修正主義」は何を狙っているのか 欧州の規制から学べること
「ユダヤ人虐殺は捏造(ねつぞう)だ」「南京事件は起きなかった」――。歴史的事実の意図的な否定や矮小化(わいしょうか)を試みるこうした言説は「歴史修正主義」と呼ばれている。そもそも何を目的とした動きであり、社会への悪影響をどう防げばよいのだろうか。欧米の歴史修正主義の実態に詳しい歴史研究者の武井彩佳さん(学習院女子大学教授)に話を聞いた。
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――歴史修正主義と呼ばれる動きが欧米でどのように展開してきたのか、その実態を研究してきましたね。そもそも、歴史修正主義とは何なのでしょう。
「歴史的事実を意図的に否定したり、矮小(わいしょう)化したり、一側面のみを誇張したりすることを通して、過去の歴史の評価を変えていこうとすること。それが歴史修正主義です。主に政治的な意図によって駆動されます」
「歴史学でも、歴史の記述は新しい史料が出てくると修正されることもあります。ただ、こうした学術的な修正の動きは歴史修正主義とは呼びません」
――いつごろから注目されているものなのですか。
「歴史修正主義の起源は19世紀末の欧州とされます。近代の国民国家が『私たちの歴史』を手に入れ、国家的な利益にかなう歴史記述を始めたときに歴史修正主義も生まれたと考えられているのです。欧米で強く関心を集めたのは1980年代。ホロコーストを否定する言説が広がったことでした。ホロコーストとは、第2次世界大戦中にナチス・ドイツの主導で組織的に行われたユダヤ人殺害です」
「典型なのは『ホロコーストの死者数が600万人というのは誇張だ』とか『アウシュビッツ収容所にガス室はなかった』といった言説でした」
歴史修正主義が狙う「未来」
――過去の歴史の評価を変えようとすることが、なぜ現在の政治的行為になるのでしょう。
「たとえば欧州では『どの国…
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