有明海のサルボウガイ激減 1・5万トンがゼロに 復活へ稚貝放流

野上隆生
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 【佐賀】かつては有明海沿岸部の広い範囲に数多く生息し、環境変化にも強いことで知られていた二枚貝「サルボウガイ」の佐賀県内の漁獲量が今年、ゼロになった。ここ数年激減しており、漁業者が漁獲を自粛したからだ。県南西部のノリの大不作にも、この貝の消失が影響しているという。有明海でいったい何が起きているのか。県は初の試みとして、25日にサルボウガイの稚貝100万個を放流し、貝復活にかける。

 「とにかくたくさんいて、稚貝を放流するようなイメージの貝ではなかったのに――」

 県水産課の荒巻裕・技術監は、サルボウガイの稚貝放流に追い込まれるほど、事態は深刻だと説明した。

 サルボウガイは赤貝を小ぶりにした殻長(かくちょう)4センチほどの貝で、「赤貝の缶詰」として広く流通している。かつては有明海北部から西部にかけての沿岸域を中心に、広範囲に生息。ノリ養殖の作業が春に終わった後の有力な収入源となっていたという。

 ところが、タイラギやアサリなどの不漁の後を追うように、次第にその数を減らしていった。

 九州農林水産統計年報によると、1990年に1万5千トンあった漁獲量が、98年には7500トンに。過去5年は2017年の465トン、19年の1997トンと変動しつつ、21年には28トンと2桁に激減した。親貝があまり残っておらず、いつもは大型連休明けから1~2カ月間続く漁獲期に、今年は漁を自粛した。

 21年の急減の理由は何か。県有明水産振興センターの増田裕二・副所長によると、一昨年と昨年の豪雨の影響が大きいという。特に昨年8月は、気象庁によると沿岸の白石町で1カ月に1066ミリという記録的な降水量があり、陸から流れ込む雨水で有明海は塩分濃度が極端に低下した。

 海の水が真水に近くなると、浸透圧の関係で二枚貝の体内に水が入り込み、死んでしまう。固く殻を閉じて防御しているサルボウガイにも限界がある。

 近年のサルボウガイ減少には、海底付近の貧酸素化の影響があったとみられる。特に夏場はバクテリアの活動が活発になって海底の酸素量が低下し、サルボウガイが使う酸素がなくなってしまう。そこに豪雨がとどめを刺した格好だ。

 実は昨年、県西南部のノリ漁場で起きた大規模なノリ不作も、サルボウガイ消失と関係があるという。貝が減ると、そのえさとなる植物プランクトンが増え、ノリの成長に必要な栄養塩を奪ってしまうのだ。加えて、サルボウガイが排出する栄養塩も減ってしまう。

 サルボウガイ復活作戦は、ノリ復活にもつながるだけに、県にとっても重要課題だ。県は今回、稚貝放流に1千万円をかけ、県外の生産機関に委託。稚貝100万個を用意した。

 サルボウガイ復活にはこれまでも、稚貝がある程度育つまで海底で過ごすための漁具「メダケ」などの入手を補助する事業も、今年度まで4年間続けている。

 このほかに、県有明海漁協も有明海沿岸4県と漁協、国が協力して資源回復策を話し合う「有明海漁場環境改善連絡協議会」で、これまで重点魚種だったタイラギとアサリにサルボウガイを加えるよう要請。復活策を模索している。

 県有明水産振興センターによると、今夏、卵から孵化(ふか)した直後の「浮遊幼生」の数は例年よりは少ないものの、昨年に比べると幼生も稚貝も多かったという。

 同センターは「今後、豪雨や台風の影響を受けなければ、資源量の回復につながる」とみている。稚貝の放流で、資源回復を加速させたい考えだ。野上隆生

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