西九州新幹線かもめ、いよいよ開業 期待や不安 沿線自治体の思惑は
【長崎】西九州新幹線「かもめ」(武雄温泉―長崎)は23日、開業する。沿線の自治体は、開業を機に街の活性化をと意気込む。一方、新鳥栖―武雄温泉の未整備区間の先行きは見通せないままだ。期待や不安。様々な思いを乗せて、新幹線は走り出す。
「新大村駅」ができる大村市。駅前に整備された約2万5千平方メートルの区画では、マンションや商業施設などの建設が予定されている。市新幹線まちづくり課担当者は「駅周辺の地価も上がり、機運の高まりを感じる」。
県央に位置する同市は長崎空港と長崎道の二つのインターチェンジを擁し、県内外への利便性が高い。新大村駅ができることで福岡方面に出やすくなり、利便性はさらに向上する。
昨年の県異動人口調査によると、長崎市や諫早市などからの転入が、転出を超過。人口減が著しい県内で唯一人口が増えた自治体で、1970年から人口増を維持している。大村市企画政策課では「市外への通勤にも便利。平坦(へいたん)地が多く、住宅を求めやすいことが理由の一つ」とみる。「さらなる移住につながる」と期待の声も上がる。
関係者が盛り上がる一方で冷ややかな声もある。
新駅の目の前に住む男性(64)は「大村で降りるメリットがない。負の遺産になることはわかりきっている」と語気を強める。「喜んでいるのは政治家と、通勤などで使う一部の人だけ」
周辺住民らの主な交通手段は車。男性も鉄道を使うことはほとんどなく、新幹線の開通で生活が便利になる実感もない。「駅前にはせめて商業施設より公会堂をつくってコンサートを誘致して、宿泊客を呼び込んだらどうか」
新大村駅でどのようにして下車してもらうか――。市も観光地として下車してもらうためのコンテンツの創出が急務だと認識している。
官民でつくる市新幹線アクションプラン推進協議会では、「素通りからストーリーのあるまち」をめざし、お土産品の開発や街歩きイベントの企画などに取り組んでいる。
目玉として準備を進めるのが、地域の食文化に触れることを目的とした「ガストロノミーツーリズム」。地域の特産品や地酒が楽しめるポイントを回るウォーキングイベントで、参加者は約3時間のコースをめぐる。初開催は11月の予定という。
市ではこのほか、新たに整備される新幹線の車両基地を活用した車庫や整備工場の見学についても検討しているという。「まずはこの機会に大村市を知ってもらい、さらに魅力を創出して、移住定住につなげていければ」
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「もともと便利な土地柄であるという既存の魅力がぐんと上がる。(新設ではないため)大変革は起きないが、メリットしかない」。諫早市商工観光課の担当者はこう強調する。
諫早市では、特急「かもめ」が通っていた駅に新幹線の駅舎が整備された。再開発したビル内にバスターミナルや飲食店などを組み込み、駅周辺の活性化を図っている。
開業後、諫早駅を通過するかもめがあるものの、長崎駅までの所要時間は18分から9分に短縮される。市商工観光課の担当者は「市民の日常使いも広がるのでは」。集合住宅の新規建設も増えているという。
長崎市以外にも、佐世保市や島原市へのアクセスの良さも諫早市の売りだ。県内観光の拠点にしてもらうと共に「食のおいしさや自然の豊かさ、魅力を伝えていければ。諫早をPRする、またとないチャンス。好循環を作っていきたい」。
周辺店舗では、チーズとトマトで「かもめカラー」をイメージした紅白バーガーやボックスフラワーなど、新幹線にちなんだ新商品開発も目立つ。
駅の近くで生花店を営む田川暁子さん(51)は「駅でもイベントが増えて機運の高まりを感じる。新幹線開通を機に活気が出れば」と期待する。
一方で、駅を利用する60代女性は「生活の変化は感じていない」と話す。駅前の再開発に期待していたが、スーパーやデパート、子どもが遊べる場所など、「日常生活にプラスになる施設」はない。「これから駅周辺に住む人が増えて、店も増えていったらいいと思いますけどね」
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新幹線の終着駅となる「長崎駅」を構える長崎市。「100年に一度の変化」を合言葉に、駅周辺で大型開発が進む。
西口(いなさ口)では昨年11月、「出島メッセ長崎」と「ヒルトン長崎」が開業。出島メッセ長崎は、国際会議も開ける大型コンベンション施設で、来年5月には主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて開かれる保健相会合の会場となる予定だ。国内外の人々が、新たなビジネスや文化を生み出す交流の拠点となることが期待されている。
東口(かもめ口)に目を転じると、商業施設アミュプラザ長崎やJR九州ホテル長崎が入る現在の駅ビルの隣に、新たな駅ビルが来年秋に開業予定だ。地上13階建て(高さ約60メートル)の複合ビルで、店舗やオフィスのほか、米ホテル大手・マリオットのホテルが入る。
駐車場などの「東口駅前交通広場」と、イベント開催の活動の場となる「多目的広場」の工事が終わる2025年に完成予定だ。
観光、ビジネス、学会……。様々な目的で長崎を訪れる人たちを受け入れる準備が進む。
市が力を入れるのは「まちぶらプロジェクト」。長崎駅の完成を見据え、市が2013年度から始めた「おもてなし」の準備の一つだ。
プロジェクトでは、歴史的な文化や伝統が色濃く残る長崎中心部の五つの地区を整備。各地区の特色をいかして、にぎわいの再生を図る。眼鏡橋がかかる中島川周辺のエリアの魅力は「和のたたずまい」。既存の町家を保全したり、町家以外の建物を町家風の外観にする工事費用の一部を助成したりしてきた。
建物の整備といったハード面だけでなく、ソフト面でのサポートもある。
「市まちぶらプロジェクト認定事業」では、地域の魅力を高める事業と認められると、市で広報するなど、助成金以外の方法でバックアップする。
この10年で観光客に着物を貸し出す事業や、密集する15寺社を周回するスタンプラリーなど計89の事業を認定し、活動を援助してきた。最近では、認定された事業者同士がコラボし、新たな活動が生まれている。
プロジェクトのねらいはそれだけではない。
長崎市は、全国の市町村でも流出人口が多い。18、19年は2年続けてワースト1位。21年は8位になったが、人口の流出が課題であることに変わりはない。そんな中で、市は開業をきっかけに、経済を活性化させ、市の魅力を高めることで、人口減少の抑制につなげたい考えだ。市まちなか事業推進室の担当者は「長崎の魅力を出すことで、このまちに住み続けたいと思う人や新しく住みたい人を増やしていくことにも貢献したい」。
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