コソボ・セルビアに漂う戦争のにおい… 対立避けたい両国の思惑は?

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ベオグラード=国末憲人

 旧ユーゴスラビアのコソボとセルビアの対立が再び強まっています。1990年代に繰り広げられた「民族浄化」の再燃となるのでしょうか。親ロシアの傾向が強いセルビアと、欧米とのつながりを重視するコソボの対立は、ロシアのウクライナ侵攻を互いに代弁する紛争なのでしょうか。両国の外交責任者に聞きました。(ベオグラード=国末憲人)

コソボのドニカ・ゲルバラ氏

〈ドニカ・ゲルバラ Donika G●(eに¨〈ウムラウト〉付き)rvalla-Schwarz〉 旧ユーゴのスコピエ生まれ。著名な反体制派活動家だった父の亡命に伴い、長年ドイツで過ごした。2021年より現職。インタビューはオンラインで実施された。

 ――コソボは2008年に独立し、日本など多くの国がその独立を承認しましたが、いくつかの国はまだ承認せず、国連加盟も実現していません。このような状況で、外交戦略をどう組み立てるのでしょうか。

 すでに国連加盟国の半数以上、欧州連合(EU)加盟国の8割がコソボの独立を承認しています。これらの国々との結びつきを強めると同時に、まだ承認を決めていない国との関係強化も模索しています。

 コソボの承認には特殊な事情があり、欧州や世界の他のケースと比較すべきではありません。国家としてのコソボは、ジェノサイド(集団殺害)から誕生しました。セルビアの圧政からいったん逃れた私たちが、セルビアの統治に再び戻ることはできません。こうして、多くの国が独立を認め、国際司法裁判所(ICJ)も独立が違法ではないと判断したのです。

 国連加盟には別の問題があります。ロシアの攻撃的な態度と拒否権が立ちはだかっているからです。ただ、スイスのような国は、かつて国連に加盟しなくても国際社会の一角を占めていました。将来的にはコソボも加盟できると信じています。

 EU加盟27カ国のうち5カ国はまだ我が国を承認していないにもかかわらず、EU加盟に向けた重要なステップであるEUとの安定化・連合協定(SAA)締結に、私たちはこぎ着けました。ロシアのウクライナ侵攻によって、その方向性はさらに加速されています。

NATOは歴史の重要な一部

 ――独立を承認しようとしないEUの5カ国をどう説得するのでしょうか。

 せかすつもりはありません。これらの国が我が国をどう見ているのかを分析し、この地域の課題と問題を説明するようにしています。セルビアの現在の民族主義政権は、コソボだけでなく、ボスニア・ヘルツェゴビナやモンテネグロなど他の周辺諸国とも緊張関係を生み出しています。コソボを承認し、現実を受け入れることこそが、この地域の緊張を緩め、セルビア民族主義が再び紛争を起こすことを防ぐでしょう。

 ――北大西洋条約機構(NATO)との関係はどうでしょうか。

 以前も今も、NATOは我が国の歴史の重要な一部を占めていますし、同様に我が国はNATOの歴史の一部を占めています。NATOと米軍の存在なしには、私たちの平和は確保できません。

 セルビアのブチッチ大統領は今、車のナンバープレート問題を口実に我が国を脅しています。彼は(旧ユーゴ時代の)ミロシェビッチ大統領の下で情報相を務めた人物であり、ロシアのプーチン大統領の代理人となっています。プーチン氏はバルカン半島で欧米との新たな戦線を開こうとしている。コソボはNATOのパートナーとして、この試みをはねつけるべく戦っています。

プーチンは「うそつきの常習犯」

 ――ロシアのウクライナ侵攻についてはどう考えますか。

 ロシアの脅威はこの地域だけ…

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