【詳報】国会の公聴会での中室牧子教授(教育経済学)の主な発言内容

岩沢志気
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中室牧子・慶大教授が参院予算委公聴会で発言した主な内容

 3月8日の参院予算委の公聴会では、3~5歳児の保育料を無償化する「幼児教育・保育の無償化」について、議論が交わされました。有識者として出席した慶応義塾大学の中室牧子・総合政策学部教授の発言の要旨は下記の通りです。

【中室牧子・慶大教授が参院予算委公聴会で発言した主な内容】

 ・米国で2020年に発表された論文(A Unified Welfare Analysis of Government Policies〈https://academic.oup.com/qje/article/135/3/1209/5781614別ウインドウで開きます〉)で、過去50年間に米国で行われた133の公共政策費用対効果を算出した。

 それによると、費用対効果の高い政策は受益者の年齢が低い時に行われているものに集中していた。公共政策は、社会保障職業訓練、現金給付など多岐にわたるが最も費用対効果が高いのは子どもの教育と健康への投資であるということになる。

 子どもの教育や健康への投資を行った政府の政策の多くは、子どもが大人になった後に税収の増加や社会保障費の削減によって初期の支出を回収できていることが示されている。

 ・かつて、(3歳から5歳児を含め)保育料は収入などの条件により違っていた。(一般的に収入が増えるほど負担額は増え、低い世帯ほど負担額が減る)応能負担となっていた。つまり、経済的に苦しい家庭の子どもの養育を支援する福祉的な役割を担っていた。

 しかし、近年は保育所の役割が福祉から共働き世帯へのサポートに変化していっている。このような状況下で始まった幼児教育無償化は、支出の多くが高所得世帯への再分配となったと考えられる。同様のことは他の自治体でも生じている。世帯の経済状況を把握することなく一律の無償化を行えば、再分配の機能を果たさない。

 ・財政状況が厳しい中で高所得者世帯への再分配が行われることは国民の理解を得られないと考えられる。一方、真に必要な世帯に十分支援が届いているかも疑問が残る。

 私の研究室でNPO法人カタリバとともにコロナ禍における経済困窮家庭の小中高生を対象にした調査の結果をみると、経済困窮以外の問題を同時に抱える世帯が全体の40・2%にのぼっていた。経済困窮に加えて19%が発達障害、7%に身体障害があり、13%が不登校となっていた。

 複数の問題が同時に生じると一気に困難な状況に陥る。しかし、発達障害や身体障害は保健部局、不登校は教育委員会、経済困窮は福祉部局の担当であり、行政の縦割りによって保健・教育・福祉の所管横断的な情報共有が妨げられており、重層的な課題を抱える子どもに対する支援が十分に行われているとはいえない。経済困窮世帯の子どもたちはそうでない世帯の子どもたちと比較すると様々な面で不利になっているにもかかわらず、経済困窮に加え複数の課題を抱えた子の世帯はそれよりももっと不利になっているということがわかる。

 以上のようなことを踏まえると、高所得世帯ほど恩恵があるような再分配を行ったり縦割り行政によって真に支援の必要な子どもに対して十分な支援が行われていないというような状況を改めたりしなければならない。(岩沢志気)

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