「武器化された相互依存」経済制裁が持つ意味 ウクライナ危機の深層
ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認し、事態は新たな局面に入った。米国はロシアがさらに一線を越え、ウクライナに侵攻した場合には本格的な金融制裁や輸出規制に踏み切る方針だ。ロシアも欧州が頼る天然ガスの輸出を制限する構えで対抗する。互いの経済関係を利用した駆け引きについて、近年の国際情勢を「武器化された相互依存」という概念で読み解いてきたジョンズ・ホプキンス大学のヘンリー・ファレル教授に聞いた。
グローバル経済で戦争回避?
――冷戦終結後、グローバル化で経済の相互依存が進めば平和につながるという見方がありました。いまのウクライナ情勢を踏まえれば、その期待は失敗に終わったのでしょうか。
そう思います。そうした期待はきわめて脆弱(ぜいじゃく)なものでした。第1次世界大戦の前の世界でも、経済の相互依存が進み「戦争は非合理になり、起こらない」との見方がありました。自由なグローバル経済による相互依存は利益ももたらしますが、たちまち弱点にも転化します。各国はそこを突かれた場合にどう対抗するか、考えるようになる。
特に金融システムのような、世界にまたがるネットワークの節目を押さえる国は、他国の動きを監視したり、ネットワークの利用を制限したりして、きわめて大きな圧力を行使できる。これが「武器化された相互依存」です。
米、ドル決済を武器に圧力
――その力を活用してきたのが、世界中の貿易や金融取引で欠かせない基軸通貨ドルを持つ米国ですね。
そうです。米国は対イラン制裁で、ドル建ての国際送金業務を担う国際銀行間通信協会(SWIFT(スイフト))の決済網からイランを排除しました。米・イランの二国間だけではなく、米国以外の国がイランと取引するのも制限する効果を持ち、国際政治のゲームを転換するものでした。ロシアが、米国の持つこの「武器化された相互依存」の力を恐れてきたのは明らかです。
――2014年のロシアのクリミア半島併合以来、米国は欧州連合(EU)とともに、的を絞った経済制裁を進めてきました。どれほど効果がありましたか。
ロシアが力で奪った領域から撤退させられなかったという点では限界はありましたが、適度な効果を保ってきたと思います。ロシアほど大きく、複雑な経済構造を持つ国に本格的な経済制裁をかけるのは、米国にとっても初めてで、制裁に実効性を持たせるのに時間がかかった面もあります。
トランプ前政権は18年、ロシアのアルミニウム大手ルサールを制裁対象としましたが、アルミ価格が高騰し、米国の同盟国にも悪影響が広がりかねなかったため、19年に制裁を解除しました。米国はこうした経験を通じ、ロシア経済や取り得る制裁の方法についてより深く理解しています。
ロ、「SWIFT排除は宣戦布告」
――今回の危機で米欧はどの…