第9回ステークホルダー主義は幻想か 経営者らの改心、コロナ禍が暴く虚実

有料記事強欲の代償 ボーイング危機を追う

ニューヨーク ダボス=江渕崇
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 もっぱら株主の利益を追い求める株主資本主義から、顧客や従業員、取引先、地域、地球環境など全てのステークホルダー(利害関係者)に配慮した新たな資本主義へ――。ボーイング737MAXが2度目の墜落事故を起こした半年後、米経営者団体ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が発した1本の声明が話題をさらった。

 通称パーパス文書。「企業の目的(パーパス)を『すべてのアメリカ人に尽くす経済』を推進することと再定義します」。そんな宣言に、アップルやアマゾン、ゼネラル・モーターズ(GM)、ゴールドマン・サックスといった米国を代表する大企業の最高経営責任者(CEO)ら181人が署名したのだ。

 BRTは1997年、企業の第一の目的は「株主に報いること」とする宣言をまとめていた。ボーイングが同業のマクドネル・ダグラス(MD)を吸収合併し、株価一本やりの道を突き進むことになる起点の年だった。そして、米大企業による自社株買いの総額が配当を上回り、株主にキャッシュを還元する動きに拍車がかかったタイミングでもあった。

 それから20年あまり。リーマン・ショックやトランプ政権の誕生、その反作用のように若者の間に広がる左派運動の勃興を経て、コーポレート・アメリカ(アメリカ株式会社)は存在意義そのものの問い直しを迫られることになった。名だたる米財界トップたちが名を連ねたパーパス文書は、潮目が変わったことを象徴的に示す。日本の岸田政権が掲げる「新しい資本主義」も、この文脈と無縁ではない。

 ただ、ひどくなる一方の経済格差気候危機など、これまでの株主資本主義がもたらした弊害を、経営者たちが自省したものと素直にとらえていいのだろうか。

 唐突にもみえるタイミングでビジネスリーダーたちがステークホルダー重視を打ち出したいきさつを探ると、強まる株主からの圧力をかわそうという思惑もうかがえるからだ。

「パーパス文書は見せかけだ」

 宣言が出た19年夏は、それ…

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