憧れた「鉄の塊」、重なった兄妹のレール 悔し涙が教えてくれたこと
遠回りしたけれど、兄妹の目的地は重なった。
「真っ赤な列車」の運転席で出発の合図を送り、レバーを握る。警笛が鳴り、走り出す――。
「あの長い鉄の塊を運転したいんです」。吉田早紀さん(28)は、そう言ってはにかんだ。名古屋鉄道運転士科の109期生として、兄の寛さん(31)と同じ運転士をめざしている。
9月上旬、愛知県清須市の名鉄西枇杷島駅そばにある名古屋鉄道教習所で入所式が開かれた。白いワイシャツ姿の男性たちとともに、吉田さんも「MEITETSU」のエンブレムが光る黒のベストを着て並んだ。
「男社会」の鉄道、少ない女性運転士
名鉄の社員数(2020年度末時点)は5122人で、うち女性は約14%の711人。現在、活躍している女性運転士は12人いる。研修中の109期生も約40人のうち女性は3人だけで、鉄道の世界は「男社会」が色濃い。
式では、名鉄初の女性所長を務める太田里奈さんのあいさつを聞いた。
「誇り高い運転士をめざし、熱意を持って教習に臨んで頂くことを期待します」。7カ月に及ぶ研修は始まったばかりだが、正直な胸の内は、「やっとスタートラインというよりも、不安が9割だった」。
名古屋市のベッドタウンで、名鉄沿線でもある愛知県稲沢市で2人兄妹は生まれ育った。幼い頃から鉄道が大好きだった寛さんとは対照的に、「鉄道には全く興味がなかった」。
運転士をめざす吉田早紀さんは、一度は違う道へと進んでいました。どうして兄と同じ道を選んだのか。物語は7年前までさかのぼります。
地元の大学では教育学部に進…