耳に痛い、真鍋さんの苦言 これで科学技術立国なのか 山極寿一さん

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科学季評 山極寿一さん

 今年のノーベル物理学賞は実に意義深い内容だった。再三にわたり疑問符がつけられてきた、大気中の二酸化炭素増加による地球温暖化について、最初に指摘した3人の科学者に贈られる。折しも、今年の8月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書は、最近の猛暑や洪水の原因が温暖化による異常気象であることを「疑う余地がない」と断定したことで、世界の注目を集めた。その根拠となった論文が、今回ノーベル賞を受賞される真鍋淑郎さんの1967年の論文だったわけである。

 まずはこの受賞を、97年の気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書を発出した京都市民として心から喜びたい。京都議定書は、88年に設立されたIPCCの報告書を受け、先進国の温室効果ガス排出量について法的拘束力のある数値目標を国ごとに設定する取り決めだった。2005年に発効し、発展途上国を含め世界中の参加を求めて努力が続けられた。そして、15年のパリ協定で、20年以降すべての国が5年ごとに削減目標を提出し、その実施状況を報告しレビューを受けることが義務付けられた。

 日本も遅ればせながら昨年、当時の菅義偉首相が50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言し、続いて30年度までに13年度比で46%削減する目標を設定した。大変喜ばしい決断だが、他国に比べて著しく遅れ、パリ協定の本格運用が始まる直前になったことに、政府の認識不足が露呈してしまった。

 実は、真鍋さんは「KYOTO地球環境の殿堂」の第1回の受賞者だ。これは環境省京都府、京都市、私が現在所長を務める総合地球環境学研究所(地球研)などによって10年に設立され、世界的な視点から地球環境の保全に多大な貢献をされた方を表彰する制度である。最初の受賞者は真鍋さんのほかに、ノルウェーの元首相で国連「環境と開発に関する世界委員会」の委員長を務め、「持続可能な開発」の概念を提唱したグロ・ハルレム・ブルントラントさん、「もったいない」の言葉を普及させたケニアの元環境・天然資源・野生動物省副大臣ワンガリ・マータイさんだった。このお二人とともに、真鍋さんが最初の殿堂入り者に選ばれたことを、地球研はとても誇りに思っている。その際、真鍋さんは地球研を訪れ、コンピューターシミュレーションによる気候モデルについて熱っぽく語ってくれた。この理論は日本の科学者の常識になっていたし、多くの研究者がエビデンスを挙げて主張してきた。にもかかわらず、政府は重い腰を上げようとはしなかったのだ。

 さて、ノーベル賞受賞に際して真鍋さんが語ったことが耳に痛く響いている。その一つは、日本の科学界は政府とコミュニケーションをとれていないという批判である。それは今度のコロナ対策でも同じことが言える。

 日本学術会議は、1度目の緊…

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