第13回「1億総活躍」も「自助」も無理筋 先に待つのは「無助」の社会

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聞き手・小村田義之

 この国のかたちを決める総選挙がスタートした。コロナ禍では、苦しい人に支援が届かず、社会保障制度の行き詰まりが明らかになった。岸田文雄首相は格差社会を生んだ「新自由主義」からの転換をうたうが、実現は可能なのだろうか。社会保障を扱う政府の審議会の委員を歴任してきた宮本太郎さんにその可能性を聞いた。

     ◇

アベノミクスがもたらしたのは

 ――発足したばかりの岸田文雄首相が衆院を解散し、選挙戦に入りました。何が問われますか。

 「安倍晋三、菅義偉両政権の9年間を、有権者が自らの生活実感から、どう評価するかが問われます。与野党の論戦は『成長と分配の好循環』『分配なくして成長なし』といった言葉が飛び交い、どちらも『分配』を前面に出していますが、もう言葉遊びのような曖昧(あいまい)な議論ではすまされません」

 「思い返せば、アベノミクスでも『分配』が言われました。異次元の金融緩和で経済を拡大し、成長の果実を社会全体に行き渡らせると約束した。しかし、株価が3万円台を回復しても、円安が進んで実質賃金が低下し、働き手への労働分配率は下落し続けています。この間、格差が拡大したことははっきりしています。岸田首相の分配論も、『空約束』に終わったアベノミクスとの違いを明確にしないと説得力を持ちません」

 ――アベノミクスが空回りした要因はどこにありますか。

 「約束を果たすのに必要な条件を欠いていたと言わざるをえません。大企業の収益が上昇したり、富裕層が消費したりすることで、困窮層にもお金が滴(したた)り落ちてくるというのがアベノミクスの考え方です。でも、それが社会の隅々まで行き渡るには、そのための『回路』が必要なのです。この回路づくりが、まったく不十分だった。現役世代を支援するはずの『全世代型社会保障』も、医療費の自己負担増など高齢者にかかるお金の削減に終始しました」

いまの日本は3層に分断

総選挙が迫るなか、いま私たちが考えるべきことは何か。有権者として何を問われているのか。記事後半では、社会保障の観点から見た日本の現状や、岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」について、宮本さんが語ります。

 ――お金が滴り落ちるというのは「幻想」に過ぎなかった、と。

 「幻想は二つあります。お金が滴り落ちてくるという話と、誰でも気合を入れれば頑張れるという話です。この9年間、『1億総活躍』や『自助』が奨励されましたが、無理筋でした。総活躍も自助も、共助や公助があってはじめて成り立つものなのです」

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 「コロナ禍で感染した家族同…

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この記事を書いた人
小村田義之
政治部|外交防衛担当キャップ
専門・関心分野
政治、外交安保、メディア、インタビュー

連載問われる民意2021(全18回)

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