真鍋さんが言葉を濁す「日本へのメッセージ」記者が感じた切なる願い

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プリンストン=藤原学思
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 自宅の壁には、井上靖の詩の一節が飾られていた。

 5日、米東部ニュージャージー州。プリンストン大学から車で5分の場所にあるその家には、朝から大勢のメディアが詰めかけた。

 同大学上級研究員の真鍋淑郎さん(90)。地球温暖化の予測法を開発し、米時間の早朝、ノーベル物理学賞の受賞が決まった。

 午前8時ごろに着くと、家の中から英語でインタビューをしている様子が漏れ聞こえてきた。しばらく待ち、日本の新聞社や通信社、テレビ局とともに中に入る。えんじ色のセーターを着た真鍋さんが、頭を下げて出迎えてくれた。

 《南紀の海はその一角だけが荒れ騒いでいた……》

 リビングの壁に、そんな書が見えた。調べると、井上靖が新聞記者時代、三重・熊野を訪れた際に書いた「渦」だった。

 テレビ局の記者がマイクを向け、「おめでとうございます」と語りかける。

 「いまねえ、英語でね、インタビューしたんですけど、やっぱり日本語で聞いていただいて、日本語で答えなければ、インタビューでは役に立たんと思いますので」

 意外だった。

 1931年に生まれた真鍋さんは東大大学院を修了後、58年、米国に渡った。97年にはいったん日本に帰国し、科学技術庁(当時)の地球温暖化予測研究領域長のポストに就いたが、2001年に辞任した。

 当時の記事を読むと、日本の縦割り行政を批判し、「長く米国にいた私は適役ではない」と語っている。

 その記事を取材の準備に読んでいた。だから英語の方が話しやすいのではないかと、勝手に思っていた。

もっと具体的に聞きたかった日本への思い

 真鍋さんの一人称は「僕」だ…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2021年10月8日11時19分 投稿
    【視点】

    この記事は「日本文化論」ではなく、「ジョブ型」組織の問題として考えるべきだ。 真鍋氏の「私は人生で一度も、研究計画書を書いたことがありません」という言葉は、予算獲得の申請書作成は専門スタッフの職務で、研究者の職務ではない、という意味で

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    磯野真穂
    (人類学者=文化人類学・医療人類学)
    2021年10月11日5時39分 投稿
    【提案】

    「これを「日本文化論」に回収してしまってはいけない。それをやったら、そこで思考停止になってしまうからだ。」という、小熊英二さんのこの記事に関するコメントは極めて重要です。 この記事を読むと、「個人の能力が存分に活かせる(素晴らしい)ア

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