松本山雅10年目の岐路 カリスマ頼みからの独り立ち

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吉田純哉
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 東京オリンピックの男子サッカーで日本代表は4位となった。攻撃の切り札として選ばれた一人が、J1横浜F・マリノスの快足FW前田大然だ。J2松本山雅FCが無名の存在から育てて、昨夏に横浜マへ移った。松本は引き留めたが、前田の「高いレベルでプレーし、成長したい」という意向を尊重した。

 コロナ禍でJクラブの経営は苦しい。関係者によると、2クラブ間の移籍交渉は金銭面を含めて異例のものだったという。

「レンタル料なし」という異例の契約

 前田は昨年8月に横浜マに加入し、今年1月から完全移籍に切り替わった。トップカテゴリーからの引き抜きにもかかわらず、期限付き移籍だった5カ月間、松本に支払われるレンタル料は「なし」だった。松本には、前田と入れ替わるように、昨年8月に横浜マからDF前貴之が期限付き移籍で加入し、今年1月に完全移籍に至った。コロナ禍でJクラブの経営は苦しい中、両クラブが知恵を絞り、利益の一致する契約を結んだ。

 Jリーグに参入して10年目。松本は前田を完全移籍させることで移籍金を得た。神田文之社長は言う。「地方クラブが育てた選手の移籍で収入を得る。そういうモデルを確立したい。大然によって、クラブは一回り成長させてもらった」

 前田は高卒新人だった。今後は下部組織を整備して、有望な若手を次々に生み出す体制をめざす。

 山梨学院大付高(現山梨学院高)時代の前田は、高校選手権の全国大会の出場経験もなく、年代別の代表歴もなかった。Jクラブのなかで、獲得に動いたのは松本だけだった。

 練習参加した前田の合否を判断したのは、2019年まで8季指揮した反町康治氏(現日本サッカー協会技術委員長)だ。

 この目利きの力に、松本は長年支えられてきた。

 反町氏はチームを指揮するだけでなく、編成面でも大きな影響力を持っていた。強化担当には獲得を希望する選手を強く伝えた。選手の年俸や移籍金を知ると、「あの選手には、この金額は出せない」などと、市場における「適正価格」にも敏感だった。神田社長は「反町さんはコストパフォーマンスが最高だった」とたたえる。

求められるクラブの独り立ち

あるクラブ関係者は「編成面における反町さんの関わり方は独特だった」と指摘します。今夏の補強を見ると、新たに就任した名波監督にも似た傾向が見てとれます。クラブが独り立ちするために、鉄戸編成部長に求められるものとは――。松本山雅FCがJリーグに参入して10年目。急成長してきた反動に苦しんでいます。反町氏というカリスマが去った後の現状と課題を「フロント編」と「監督編」の2回に分けて迫ります。今回は「フロント編」

 Jクラブでは後発組となる松…

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