トランプ現象、英国にも? 「ラストベルト」と似た声が

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ハートルプール=金成隆一

 英イングランド北東部の「労働党の地盤」で5月に下院補欠選があり、労働党が「歴史的な敗北」を喫した。何が起きているのだろうか。投票日の前に現地を歩くと、私が2016年のアメリカ大統領選で取材したラストベルト(さびついた工業地帯)とそっくりの声が聞こえてきた。

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 選挙があったのは港町ハートルプール。ロンドンから鉄道で北へ4時間ほど。かつて一帯は製鉄業や炭鉱業が盛んだった。

 私は別件の取材の帰路に1日だけ立ち寄った。どうしても訪ねてみたい理由が二つあった。

 一つ目は、ハートルプール選挙区では1974年以来ずっと労働党が勝利してきたが、「今回は保守党に負けるかも」との情勢を英メディアが流していたからだ。

 私は「米国のラストベルトと似ている」と思った。5年前の米大統領選で、ニューヨーク特派員だった私は、トランプ支持が根強い「トランプ王国」の取材に没頭した。アパートも借りて取材したオハイオ州トランブル郡は、かつて製鉄業が栄えた典型的な「労働者の街」で民主党の勝利が当然だったが、トランプが多くの労働者票を集めて、共和党候補として72年のニクソン以来、初めて勝った。

 日本を含めた先進国で所得格差が深刻になり、今ほど労働者の声を代弁する政党の役割が求められる時代はないはずなのに、英国のハートルプールでも米国のトランブル郡でも「労働者の政党」の長年の地盤が崩れていることになる。英労働党は戦後に「ゆりかごから墓場まで」を保障する福祉国家のビジョンを示した政党でもある。そんな労働党の行方を探ってみたかった。

 二つ目の理由は、約20年前の市長選で「サル」が勝ったからだ。

 地元サッカーチームのマスコットを演じていた男性が2002年の市長選に立ち、二大政党の候補を退けて当選した。男性はサルの着ぐるみ姿で「子どもたちに無料バナナを」と公約を訴えた。今に通じる「既存の政治」への不信であるなら、有権者の声を聞いてみたかった。

 投票日の1週間前、4月30日に私は街を歩いた。駅前の一等地にあるホテルは廃業し、窓にベニヤ板が打ち付けられていた。

 写真撮影していると、若者1人が近寄ってきた。足元がふらふら、目の焦点も合っていない。地面に寝転がり、うめき声をあげ始めた。

 私は駅前で客待ち中のタクシー運転手に「酔っ払いか?」と聞いた。驚いた様子もない運転手は首を横に振った。「酒であんなになるわけがないだろ、薬物中毒だ、放っとけ」

 近くの商店街を歩くと、「(…

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この記事を書いた人
金成隆一
大阪社会部次長|機動報道担当
専門・関心分野
国内社会、米国、外交、ジャーナリズム