どうなる「過労死ライン」 20年ぶりの基準見直し注目

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山本恭介
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 脳や心臓の病気を発症した働き手が労働災害を申請した場合の認定基準について、厚生労働省が20年ぶりの見直しを進めています。とくに働き過ぎだったか否かの判断材料として存在感の大きい「過労死ライン」の行方が注目されます。

「月80時間」がハードルに

 岐阜県で建築関係の仕事をしていた50代男性は2017年、脳出血を発症した。平日は早朝から日付が変わる直前まで働き、休日も現場に出向いた。業務の負担が増えるなかでの発症だったという。

労災保険

 雇われて働く人が業務上でけがや病気をしたり死亡したりしたとき、本人や遺族に治療費などを給付する制度。主に企業側が保険料を負担する。脳・心臓疾患、過労自殺を含む精神障害も対象になる。労働基準監督署が申請内容を審査する。認められなかったら労働局に再審査を請求することもできる。労災と認定されれば、治療費は全額支給される。仕事を休まなければいけない場合は一定期間、平均賃金の8割が原則補償される。本人が死亡した場合は、遺族が年金や一時金を受け取ることができる。

 男性は、労働基準監督署に労災申請した。しかし却下され、現在、再審査を請求中だ。代理人の一人の大辻美玲弁護士は「過労死ラインの『月80時間』がハードルになっている」と話す。

 過労死ラインは、発症前の労働時間が原因だったといえるかを判断する目安のことだ。発症前1カ月間の残業がおおむね100時間あった場合、または発症前2~6カ月間の月平均がおおむね80時間を超えた場合、業務との関連性が強いと判断される。

 この男性の場合、発症前1カ月の残業は約87時間、発症前2カ月の月平均は約68時間で、ラインに届かなかった。

 過労死ラインは、あくまでも脳・心臓疾患の労災認定基準の一つにすぎない。業務中に受けた大きな精神的ショックや、1週間以内の過重労働で認められることもある。厚労省の担当者も「時間以外の要素も踏まえて総合的に判断している」と説明する。

労基署の判断で重み

 それでも、労基署の判断の際、過労死ラインが重みを持つのは間違いない。2019年度に認定された脳・心臓疾患の労災216件のうち、残業が月80時間未満だったのは23件だけだった。

 近年、脳・心臓疾患の労災認…

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    志村亮
    (朝日新聞経済部次長=企業、労働)
    2021年6月21日10時46分 投稿
    【視点】

    記事中のデータも示すように、過労死ラインの運用が機械的になっている面は否めません。「総合判断」の材料には、精神的な緊張といった要素もあります。ただし労基署で審査にあたる担当者にとっては、「仕事上で大きなミスをした」「ノルマが達成できなかった

    …続きを読む