尾身氏「リーダーは覚悟を」 五輪へ突き進む首相に問う

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西村圭史 中田絢子 笹井継夫
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 東京五輪パラリンピックの開幕まで50日余りとなった6月2日の衆院厚生労働委員会。コロナ禍での五輪開催に世論の不安が広がる中、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(72)の言葉は、それまでにない危機感を帯びていた。

 「今の状況でやるというのは、普通はないわけですよね。このパンデミック(世界的大流行)で」「そもそも五輪をこういう(感染)状況のなかで、何のためにやるのか」。安倍前政権から政府との調整役を担い、首相会見にも同席してきた専門家が連発した「警告」。国内外のメディアは尾身氏の発言を速報し、大きな波紋を呼んだ。

 その夜にあった厚労省の専門家組織の会合でも、五輪をめぐる議論が白熱した。「五輪の感染対策と、地域の感染への影響は無関係ではない。国民もそう思っている」「何も言わないのは責任放棄だ」。同組織は五輪のリスク評価を任されてはいなかったが、このままやり過ごすことはできないとの声が相次いだ。

 同組織のメンバーでもある尾身氏も、昼間の国会での発言を紹介し、「どうすればリスクを少しでも減らせるのか。専門家の立場で提言すべきだ」と訴えた。日本医師会の釜萢(かまやち)敏・常任理事は会合後、「みんな(政府とのあつれきも)覚悟した。非常に重苦しい会だった」と話した。

 尾身氏はそのころ、周囲にこんな不満を漏らしていた。「リーダーにはもっと覚悟が必要だ。『平和の祭典だ』なんて言っても、国民は共感しない」。それは、国民にリスクを語らぬまま五輪へと突き進む菅義偉首相(72)に対する問いかけでもあった。

 一方、政権内では尾身氏への苛立(いらだ)ちが広がった。

菅首相「なんであんなことを」 

 自民党幹部は「首相は五輪を…

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    前田直人
    (朝日新聞デジタル事業担当補佐)
    2021年6月13日17時17分 投稿
    【視点】

    政治と科学の間に漂う緊張感が伝わってきます。思惑で動く政治家は「不都合な真実」に封をしたい衝動にかられがちですが、科学者は真実に対して忠実でなければなりません。人命にかかわるリスクを予見しながら、忖度して黙ればただの追認機関になってしまいま

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