「グラップラー刃牙で見た型だ」壮絶写真のあなたはどこ

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真野啓太
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 戦前の沖縄の写真165枚が朝日新聞大阪本社で見つかった。沖縄戦で戦前の写真は焼失しており、まとまって見つかるのは珍しい。特集を組むべく、取材を担当することになったわたしは、写真のデータを1枚ずつ確認していた。

 ある写真で手が止まった。2人の男が空手を披露している写真だ。力士のような大柄な男が突きを繰り出す。対する筋骨隆々の男は突きを腹で受ける。手の甲を正面に向け、前腕で逆「ハの字」をつくるように構える、その姿勢に見覚えがあった。

 この構えは「三戦(サンチン)」だろうか。

 三戦とは、空手の型の一つだ。空手経験のないわたしが「三戦」を知っているのは、板垣恵介さんの人気格闘マンガ『グラップラー刃牙』に登場するからだ。空手家・愚地独歩(おろち・どっぽ)が三戦の型で、強烈なパンチに耐える場面がある。改めてマンガをめくってみると、こう書かれていた。

 「空手道に古くから伝わる守りの型 呼吸のコントロールによって完成されるこの型は完全になされた時には あらゆる打撃に耐えると言われる」

 何げない構えに見える。マンガだから誇張はあろう。ただ、空手の伝統が詰まった型ではあるようだ。

 写真の男の構えは、三戦なのか。顔をゆがめているが、どれほど強烈に突かれたのだろうか。三戦で耐えることができたのだろうか。そもそも2人は何者なのか。屋外で、観客の前で、空手を披露しているのはなぜなのか。写真を取材してみることにした。

「上地流」2代目と実業家の大男

 最初に手がかりとなったのは、写真の裏書きだ。鉛筆でこう書かれていた。

 〈縄縣人會の/唐手拳法大會/市立運動場/七月十六日〉

 冒頭の「縄」は、もともと「沖縄」と書かれていたが、はさみで切られたのだろう。鉛筆書きとともに、1933(昭和8)年7月25日に写真を保存する部署に納入されたことを示すスタンプもあった。撮影時期も1933年かそれ以前と推定される。

 空手発祥の地である沖縄の、どこかの市立運動場で開かれた空手大会を写したものだろう。そう予想し、取材を始めた。

写真を手に、様々な人に聞き込んでいった記者。ある段階で行き詰まった時、手がかりとなる新聞記事の切り抜きが送られてきました。

 先輩記者が沖縄の空手関係者…

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