老朽原発の再稼働議論、加速 先送りの使用済み燃料問題

 運転開始から40年を超えた福井県内の老朽原発の再稼働の是非について、議論が大詰めを迎えつつある。19日は県議会の全員協議会があり、国や関西電力から詳細な説明があった。4月に入り、議論は一気に加速したが、使用済み核燃料の中間貯蔵施設をめぐる長年の課題はどうなったのか。

 「約束ととらえて良いのでしょうか」

 県議会第2会派、民主・みらいの辻一憲会長は、中間貯蔵施設に関連する質問を投げかけた。関電は2023年末までに候補地を決められなければ、その時は老朽原発3基が動いていても止める、としている。

 「結構です」

 関電副社長の松村孝夫氏はこう明言した。

 美浜町の美浜3号機と高浜町の高浜1、2号機の再稼働の是非を巡り、県議会は19日午前、全員協議会に関電幹部らを招いて質疑を交わした。午後には経済産業省資源エネルギー庁や内閣府など国の担当者ともやりとりした。

 だが、課題も残る。協議会後、取材に応じた畑孝幸議長は「(再稼働と)中間貯蔵とは別という前提があり、(中間貯蔵施設についての)議論は深まらなかったと思う」と語った。

 東京電力福島第一原発事故後の13年に施行された改正原子炉等規制法は、原発は原則40年で廃炉と定めた。にもかかわらず、なぜ再稼働が必要なのか。

 きっかけは、15年に経済産業省が示した、30年度時点での国内の電源構成案だ。ここで原発の比率は「20~22%」とされた。宮沢洋一経済産業相(当時)は「達成には、30基台半ばの原発が稼働していることが必要」と述べた。だが、福島の事故後に原発の比率は落ち込み、19年度の比率は約6%。昨年10月に杉本達治知事らと面談した経産省資源エネルギー庁の保坂伸長官は「実現には40年超運転が不可欠」と話し、理解を求めた。

 菅義偉首相が昨年10月に所信表明演説で掲げた、50年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を巡っても、自民党内では「原発再稼働が必要だ」との声があがっている。

 東日本大震災前に発電量の5割近くを原発に依存していた関電は、火力発電の燃料費などがかさみ、経営が厳しい。発電コストが安いとされる原発の稼働率向上を目指す。

 廃炉が決まっておらず、稼働年数を重ねていた美浜、高浜両町の原発は、こうした思惑を背景に、国内初の40年超運転の俎上(そじょう)にのせられている。

 一方、畑議長が取材に語ったように、放置された問題がある。

 使用済み核燃料の行き場となる中間貯蔵施設について、県はこれまで関電に候補地を県外に示すよう求めていたが、関電は合意を得た場所を見つけられていない。ただ、候補地を再稼働議論の「前提」「全ての条件に先んじる」と強調していた杉本知事は現在、両者を別々に考える姿勢を示している。

 2月定例議会で判断を見送った県議会だが、4月以降の動きは速かった。

 再稼働にあたって1発電所あたり25億円の交付金など、新たな支援策が国側から示されたことを受け、杉本知事が6日、議論を進めるよう要請。県議会は14日に美浜、15日に高浜の両原発を視察し、19日の全員協議会まで、スケジュールを入れた。

 かぎを握るのは、最大会派の県会自民党だ。

 「あとは手続きだ」

 ある県議はつぶやいた。だが別の県議はこうも言う。

 「自民党の中でも、慎重な対応やしっかりした議論を求める声はある。最後までどうなるか分からない」

 県議会は21日にも全員協議会を予定しており、杉本知事と意見交換する。23日には臨時議会があり、再稼働について何らかの判断を示す可能性もある。

 原子力政策に詳しい大島堅一・龍谷大教授(環境経済学)は「原子炉等規制法の改正時には原発は40年で止め、例外はほとんど認めないはずだった。にもかかわらず、中間貯蔵施設の問題すら先送りにして議論をすることに大きな疑問が残る」と話す。

 そのうえで、議論の内容について、こう指摘した。

 「議会や知事の判断は、先行事例として他の原発にも影響を与えるが、事故が起きたときの対応を含めて、様々な角度からの検討が少ないのではないか。これで県民が納得できるでしょうか」

◆美浜3号機、高浜1、2号機の再稼働議論をめぐる主な経緯

2011年3月  東日本大震災発生

  13年7月  改正原子炉等規制法が施行。原発の運転期間は原則40年としたが、例外的に最長20年間の延長もできるように

  15年7月  国が2030年度の電源構成を決定。原発の比率を20~22%に

  16年6月  原子力規制委員会が高浜1、2号機について60年までの運転延長を初認可

     11月 原子力規制委は美浜3号機の運転延長を認可

  17年11月 県が求めている使用済み燃料の県外搬出について、関電は18年末までに候補地を示すと表明

  18年12月 関電が18年中の中間貯蔵施設の候補地選定を断念。20年中の提示を約束

  20年12月 杉本達治知事は中間貯蔵施設の県外候補地について「すべての条件に先んじる」と発言

     同   電事連が青森県むつ市の中間貯蔵施設を原発を持つ各社で共同利用する案を検討していることが、朝日新聞の報道で判明。むつ市側は否定

     同   関電は中間貯蔵施設の具体的な候補地を示せないと県側に報告

  21年2月  高浜町長が高浜1、2号機の再稼働に同意すると表明

     同   関電社長が知事に中間貯蔵施設の県外候補地について「23年末を最終期限として確定する」と報告。知事は「議論に入る前提はクリアされた」

     同   美浜町長が再稼働への同意を表明

     3月  2月議会で県議会の自民党会派が議会中の判断見送りを表明

     4月  知事が県議会に議論の再開を要請…

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