えちごトキめき鉄道、新駅切望50年 ようやく悲願の訳

松本英仁
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 第三セクターのえちごトキめき鉄道(上越市、トキ鉄)・日本海ひすいラインに13日、同社で22番目となる「えちご押上(おしあげ)ひすい海岸駅」が新潟県糸魚川市押上地区に開業した。県立糸魚川高校の移転を機に、地元が新駅設置に動き始めたのは半世紀前。電車ではなくディーゼル化というトキ鉄の選択で駅新設にこぎつけた。(松本英仁)

 新しい駅のホームは、県道221号の踏切を挟み、上りと下りが南北で斜めに向かい合う。

 地元住民によると、駅のできた押上地区は近年、宅地化が進み、建設場所は限られていたという。

 北陸新幹線の高架がある南側にトイレ、駐車場14台分、約140台分の駐輪場、約16平方メートルの待合室を設けた。駅舎関連に約5億3千万円、駅周辺整備に約7千万円をかけた。市の負担分は駅舎が約2億5千万円、周辺整備が約6千万円で、それ以外は国や県の補助金などを充てた。

 「この地に駅を」という機運が生まれたのは、県立糸魚川高校が1972年、市役所近くからこの地域に移転したのがきっかけだ。地元や市などが国鉄や民営化後に北陸線(現日本海ひすいライン)を引き継いだJR西日本に何度か働きかけたが、実現しなかった。「鉄道の架線のデッドセクションが近くにあって、円滑な運行のため新駅建設は技術的に不可能」が理由だった。

 デッドセクションは、鉄道の架線の交流と直流を切り替えるために設けられる電気を通していない区間。トキ鉄によると、今回ホームが向かい合う踏切から数百メートルの地点に上り60メートル、下り20メートルのセクションが設けられている。電車はこの区間を給電せずに惰性で走り、交流と直流を切り替える。近くに駅があると、駅で異常があった時にセクション内で停止し、立ち往生してしまう危険があった。

 ところが北陸新幹線の開業(2015年3月)に伴い、並行する在来線の北陸線がJR西日本から切り離され、トキ鉄が引き継いだことで、光明が差す。

 トキ鉄は、財政面も考慮し、ひすいラインの列車を交流と直流の両方を走行できる電車ではなく、ディーゼルエンジンで走る気動車1両の運行を基本方針としたからだ。

 電車でないならセクションは気にしなくていい。気動車の方針が示された13年ごろから地元自治会を中心に市や県などに働きかけを再開。翌年度には調査が始まり、17年9月には国の事業採択、昨年5月に着工した。

 駅名は公募で集まった523通から、支持が多かった地区名の「押上」や近くの海岸で産出する「ヒスイ」を取り入れ、トキ鉄では字数の最も多い駅名になった。1日約700人の乗降客を見込んでいる。

 新駅開業は、市内では1986年11月のJR大糸線・姫川駅以来35年ぶり、トキ鉄沿線では、61年12月の旧国鉄信越線(現妙高はねうまライン)・南高田駅(上越市)以来60年ぶりになる。

 駅がある押上1、2丁目、南押上1~3丁目には約600世帯約1600人が暮らす。両町でつくる押上区の伊井一夫区長(73)は「50年も待ち望んだ駅が10カ月でできるとは思わなんだ」と喜びを隠せない。夜間工事や振動を伴う工事が続いたが、「住民から苦情を聞いたことがない。それだけ地元の期待が大きかった」と振り返る。

 13日の開業記念式典には、背中に「サポーター」の文字が入った緑色のジャンパー姿の住民たちもいた。有志50人ほどを募り、「駅やトイレの清掃、周辺の美化活動など何ができるか、みんなで思いや知恵を巡らせながら駅を盛り上げたい」と声を弾ませた。伊井さんは孫と一緒に直江津駅まで乗車、上越市内で買い物を楽しんだ。「糸魚川駅まで3分。繁華街で一杯やって列車で戻る、なんて知り合いが増えたね」

 駅の開業に合わせて、糸魚川市内でしばらく途絶えていた「駅弁」も復活した。駅近くに本社を構え、新鮮な魚介類を売り物に糸魚川駅前や妙高市などで飲食店を経営する「傳兵」は、「翡翠(ひすい)弁当」(税込み2200円)、「薬石弁当」(同1200円)の販売を始めた。

 いずれも2段重ねで、翡翠は色鮮やかなちらしずしと、メギスやバイ貝、地鶏、かまぼこなど十数種のおかずが詰まっている。薬石は地鶏のスープで炊き込んだご飯と、9種のおかずが彩る。3年近く構想を練り、材料はすべて糸魚川産、手作りにこだわった。

 両弁当には、石による「まちおこし」を進める市にちなみ、ヒスイ海岸で見つけることができる石のトレーディングカードがおまけで付く。担当者は「手に入りにくい食材もあり、利益追求より地域を盛り上げたい気持ちが強い。新駅の開業を機に食でも糸魚川の良さをアピールしたい」と意気込む。行楽や会議用に、とまとまった注文が入り始め、上々のスタートという。

 いずれも2日前までに予約(電話025・556・6800)する。

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